日本大学バスケットボール部、日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部のヘッドコーチ時代を経て、1994年からジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部の総監督に就任した高木彰氏。その高木氏が、「チームを強くするには?」ということを今一度考え、「チームを率いる指導者がはっきりとした理念を持てば、チーム力が底上げされるし、選手たちも上達する」という結論に達しました。高木氏が指導者の皆さんの悩みや疑問に答え、チームの発展に協力するクリニックです。
バスケットボールはよく「ハビットスポーツ」というような表現をされることがあります。
つまり「習慣のスポーツ」と言われているくらい、日頃から習慣付けすることが大切なスポーツ、ということです。
話は変わりますが、生まれたばかりの子供が段々大きくなって、離乳食が始まると先ず始めに習慣化されるのが、スプーンや箸の持ち方。右手にスプーン、左手にお茶碗。
三度三度の食事に親御さんが付きっ切りで教えていきます。
そして、お腹が空いた時、食事を用意すると、子供たちは何も考えずお箸やお茶碗を手にとって何も考えることなく食事をするようになります。
又、幼稚園や学校の行き帰りも、最初の頃は親御さんが付き添いながら、通遠路や通学路を教えて行きます。「この○○さんの家の角を右に曲がるんだよ」、というような調子です。
しかし、一ヶ月もしないうちに子供たちは友達とわいわいがやがややりながら、道順を考えずに幼稚園や学校に行くことができるようになります。
これも一種の習慣だと私は考えています。
さて、バスケットボールに話を戻しましょう。先ほど「習慣のスポーツ」と言いましたが、「大山コーチのテクニックの基礎クリニック」のコーナーで、ボールハンドリングから始まり、ディフェンス・オフェンスの基本を解説しています。これらのドリルはいわゆる「基本」。バスケットボールをやるために最低限必要な技術な訳です。写真を見るといとも簡単にやっているように見えますが、簡単にできるまでには、冒頭の、スプーンや箸の持ち方と同じ様に、おそらく子供頃から、Wリーグ、全日本等で活躍している時も、繰り返し繰り返し練習を重ねて習慣化しているから、一見簡単そうに見えるのです。
我々指導者はチームを預かって、チームを作り、当然勝つことを目標において指導して行きますが、どうしても足元の勝利が最優先されてしまいます。これは当然のことだと思います。そこで戦略・戦術に目が行き過ぎて、結局、基本(ファンダメンタル)を疎かにしてしまいがち。チームディフェンスが…。速攻が…。リバウンドが…。等々。
チーム全体の底上げを最優先してしまい、その上結果が出ないとさらに悩みが大きくなっていきます。練習の回数・時間等、いろいろ悩みは尽きませんが、選手個々を上達させなければ、やはりチーム力の向上には結びつかないのではないでしょうか。
そして、悪い習慣を是正し、良い習慣を身につけるようにすることが我々の大きな仕事のような気がします。
指導者の皆さんは「ピートドリル」という言葉を聞いたことがありませんか?
アメリカの偉大な指導者、ピート・ニュエル氏を、NBA高額年俸のプロ選手たちが、ニュエル氏を、シーズンオフにハワイに招聘して、「ビックマンキャンプ」と銘打って、まさに数日間掛けてファンダメンタルを徹底的に反復練習し、選手達は基本に戻って又次のシーズンを向かえるのです。つまり、有名なプロ選手たちがニュエル氏に教えを請う訳です。
その時にやったドリルが「ピートドリル」。
その内容は、基本中の基本。ボールハンドリング、ボールのもらい方、ステップの使い方、スクリーンの掛け方等々でした。
最近はご高齢のため来日されなくなりましたが、それまでは毎年こられて、全日本チームや若い選手達のクリニック等で、何時も言われていたのが「ファンダメンタルが大切!」でした。
選手達を早く上達させたいと思うのは我々指導者の同じ悩みですが、きっとシーズンが終わって振り返ったとき、何時も感じるのは「基本の大切さ」ではないでしょうか。
「もう少ししっかりボールがもらえるようになれば」「シュートだけでなく、カットインが出来ればなー!」「パスがもう少し上手くなれば…。」等々。
上手くなるための特効薬はありません。結局は基本の反復練習をいかに根気良くやっていくか、ということではないでしょうか。
では又次回お会いしましょう。