ENEOSバスケットボールクリニック

スペシャルアドバイザー高木彰氏のコーチングクリニック

日本大学バスケットボール部、日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部のヘッドコーチ時代を経て、1994年からジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部の総監督に就任した高木彰氏。その高木氏が、「チームを強くするには?」ということを今一度考え、「チームを率いる指導者がはっきりとした理念を持てば、チーム力が底上げされるし、選手たちも上達する」という結論に達しました。高木氏が指導者の皆さんの悩みや疑問に答え、チームの発展に協力するクリニックです。

第3回:「選手を伸ばす」その2

この回は、第2回:「選手を伸ばす」その1の続きです。

前回はバスケットボール的な資質から見た場合の選手の長所をいかに伸ばすか、ということについて延べましたが、「資質」というのは何もバスケットボールに関することだけではありません。

例えば、「あの子は短気で、直ぐカッカして喧嘩してしまうんだ」、「おとなしくて積極性がないんだな〜」、「プレーは上手いんだが、生活態度や授業態度がなってないんだ」等々。先生方から良く聞く言葉ですが、選手の性格から来る資質についても同様なことが言えるのではないでしょうか。

別の見方をすると:
「短気・喧嘩っ早い」→能動的・積極的・アクティブ・元気
「おとなしい」   →冷静・観察力が豊か
「生活態度」    →集中力が高い・バスケットボールへの情熱がある(好き)。
というように考えられるかもしれないのです。

試合中、チームに何となく元気が無くて沈滞ムードな時があります。そんな時「短気」「喧嘩っ早い」所がチームを活性化させるかもしれません。
チームがパニック状態に陥った時、「冷静さ」が救ってくれるかもしれません。
また、生活態度が悪くても、負けん気が強く頼りになる存在であったりしませんか。

そう考えると、何が短所で何が長所か一概に決められるものではありません。結局、指導者が固定観念でその選手の特質を「短所」と決め付けているかもしれないのです。
日頃から「お前はな、そんなだからプレーが上手く行かないんだよ」というレッテルを貼られてるとしたら、その選手も自分の短所を指摘されるから面白くなくなってきます。

しかし、「短所」だと思っていたことが逆に「長所」に変わった場合、選手達は俄然やる気を出し、どんどん上手くなってくる可能性があります。

「お前は直ぐに喧嘩するから駄目なんだ!」ではなく「チームに元気がなくなってきたらお前の出番だぞ!声を出して皆を引っ張れ」。
言葉の選び方一つでその選手が駄目な選手になったり、役に立つ選手になったりするわけです。

話は変わりますが、よく誉める教育が良いのか、叱る教育が良いのか、というようことがよく言われます。私は教育の専門ではありませんのでどちらがどうとは言えませんが、長年現場で指導してきた経験から言わせて頂ければ、やはり誉めることで選手は伸びるのではないでしょうか?
皆さんも子供の頃を振り返ってみてください。学校の先生や親兄弟に褒められたことを今でも覚えていませんか?

何となく褒められたことで自信をつけて、何でも上手く行くような気がしたことがあるはずです。
だからきっと大人になった今でもそのことが記憶の何処かに残っているのでしょう。

子供たちがバスケットボールを始めてから、本当に少しずつ成長していきます。しかし、指導者は「結果」を出すことが仕事ですから、速く上手くしたいと思っています。
従って、そこには指導者の「焦り」が顔を出してきます。
すると、どうしてもミスをしたことが許せなくなるのかもしれません。そこで、叱ることによってミスを矯正しようとします。
しかし、選手達には叱られた記憶が何時までも頭の中にあり、次第に「萎縮」という現象になって現れ易くなります。
端的に言えば、ミス→叱られる→ミス出来ない→消極的、ということになりかねません。

最も大切なことは指導者の我慢だとおもいます。おそらく小中学生の場合、5回何かをやったとしたら3〜4回ミスをするかもしれません。
じっと我慢です。1〜2回の上手く行くプレーを待ちます。そして、その1回が出たとします。チャンスです。「ナイスプレー!できるじゃないか!良いぞー!」と誉めてみてください。そして、わが事の様に喜んでみてください。おそらく次の練習から良いプレーがもっと沢山出てくるかもしれませんね。選手が成長する入り口に一歩前進した、と考えることが出来ます。
かなり大げさな言い方をしましたが、ようは誉めるためにはいかに指導者が我慢するかがカギになります。

何時も叱っている指導者にいきなり「誉めろ」といわれても何となく恥ずかしいものですが、選手が成長する為です。自分もその恥ずかしさから抜け出す勇気を持ってください。

以上のように良いプレーをした時、褒めることで選手は成長しますが、逆にやってはいけないことをした時や、チームで決められたことを守らなかった場合には叱ることも大切です。
皆さんも何か悪いことをした時に叱られた経験もあるはずです。そしてそのことはまた、「やってはいけないこと」として記憶に残っていて、大げさな言い方をすれば善悪の判断ができるようになっているのです。

選手として成長させる前に一人の人間としても成長させることの方がもっと大切です。
「集団の中の個の役割」を理解させる為にも、正しい判断力を見につけさせるためにも。

次回は「選手のモチベーションを上げるには」でお会いしましょう。

高木 彰氏プロフィール

高木 彰氏

1949年
1月22日生まれ 東京都出身
1971年
日本鉱業株式会社(現:ENEOS) 入社
1978年
現役引退後 同社バスケットボール部アシスタントコーチ 就任
1979年
日本大学バスケットボール部ヘッドコーチ就任
(全日本学生バスケットボール選手権大会  3回優勝
関東男子学生バスケットボールリーグ戦  3回優勝
関東男子学生バスケットボール選手権大会 2回優勝)
1986年
日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部
ヘッドコーチ 就任
(全日本総合バスケットボール選手権  2回優勝)
1994〜1998年
ジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部 総監督
1998〜2003年
バスケットボール女子日本リーグ機構 理事・広報部長
2004年〜
バスケットボール女子日本リーグ機構 理事
2003〜2014年
日本文化出版(株)月刊バスケットボール技術顧問
2004〜2008年
実業団男子バスケットボールチーム ヘッドコーチ
2009〜2010年
JBAエンデバーWG委員
2010年〜
東京国体成年男子アドバイザー・技術顧問

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