ENEOSバスケットボールクリニック

スペシャルアドバイザー高木彰氏のコーチングクリニック

日本大学バスケットボール部、日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部のヘッドコーチ時代を経て、1994年からジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部の総監督に就任した高木彰氏。その高木氏が、「チームを強くするには?」ということを今一度考え、「チームを率いる指導者がはっきりとした理念を持てば、チーム力が底上げされるし、選手たちも上達する」という結論に達しました。高木氏が指導者の皆さんの悩みや疑問に答え、チームの発展に協力するクリニックです。

第8回:ディフェンスのフィロソフィー」その1

今回からは実際にコートに立ち、チームを作るにはどういうふうに組み立てれば良いか、ということについて技術的な側面も含め考えて行きたいと思います。
「大山コーチの基礎クリニック」も丁度ディフェンスのファンダメンタルが始まりますので、技術的な解説を見ながら、考え方を整理して頂ければ、と思います。

【勝利を掴むのはディフェンスから】

チーム魂バスケットボールでは昔からこんな諺があります。
「Offense is show. Defense is win」(オフェンスは見せる物、ディフェンスは勝利を生むもの)
ボールを持ったプレーヤーが見事にゴールをゲットする姿は、真にショウ(Show)です。観ていて本当にエキサイトするのがオフェンスですね。観ていて楽しいものです。
しかし、オフェンスは水物といわれ、その日のコンディションによって大きく変化します。
ある日は面白いようにシュートが決まることがありますが、試合が重なり、選手が疲労してくるとジャンプ力等が低下して極端にシュート率が低下することがよくあります。

ところが、ディフェンスはボールを守っているのは一人ですが、他の4人がそれをヘルプすることができる為、コンディションに影響される度合いが小さく安定(最低限の計算ができる)していると言えます。
言い換えれば、オフェンスでは最後のゴールゲットは一人ですが、ディフェンスは最後まで5人で協力して守っていける、ということです。

従って、「チーム」としての意識が充実していて、全員が同じ方向を目指しているなら、強力で良いディフェンスができるチームになるということです。

しかし、選手側から見た場合、ディフェンスというのは相手の意思に従って動かざるを得ない為、練習をするにしても「我慢する」「辛い」「苦しい」ものなのですが、そこを精神的に乗り越えること(勇気と闘争心で)が出来れば、常に安定したチーム力が発揮されるのです。
「Team Spirits」(チーム魂)、という言葉がありますが、「絶対に守るぞ!」「絶対に抜かれないぞ!」というような強い心を育てることによって、強いディフェンスのできる、強いチームを作ることが可能になるということになります。
私のフィロソフィーに「勝利の3原則、3D」というのがあります。それは、
(1)規律(Discipline)
(2)献身(Dedication)→ Teamwork そして
(3)ディフェンス(Defense)
前回まで述べてきた様々なことがこのベースを作っています。

【マンツーマンかゾーンか】

講習会などに伺うと、マンツーマンを採用するかゾーンを採用するか、という質問を受ける時があります。指導者として大いに悩む所でしょう。
ゾーンディフェンスを採用する場合の考え方は、
・マンツーマンで守れない。
・ファウルが多くなった。
・リバウンドが取れない
等々。ゾーンディフェンスを採用する理由の多くは消極的な側面から来るものが主な理由ではないでしょうか。

3ポイントルールが出来て以降、中高生レベルでも選手達のシュート技術は圧倒的に進歩してきています。従来の2−3ゾーンや3−2ゾーン等、いわゆるオーソドックスなゾーンディフェンスを採用した場合、アウトサイドのシュートの確率がかなり高くなって来ているのも事実です。従って、ゾーンを採用する場合はかなりアウトサイドまでプレッシャーの掛けられるような、いわゆるマンツーマンに近いゾーンディフェンス(マッチアップゾーンといわれるようなもの)を採用することが望ましいのではないでしょうか。
また、例えばゾーンのギャップ(2人の選手の真ん中)でシュートを入れられた、というような場合、その責任の所在が明確にならないケースが多く、何となく曖昧なまま修正できずにやられる、というような場合も多くあります。

ディフェンスは先ずマンツーマンから始めることが望ましいと思います。

【ディフェンスの三つの要素】

  1. プレッシャー
    良く「プレッシャーをかけろ!」と言いますが、これには二通りあると思います。
    一つは、ボールを持っている選手にプレッシャーをかけること。もう一つはボールをレシーブしようとする選手にボールを有利な位置で持たせないようにプレッシャーをかける「ディナイ」です。
    常にオフェンスに圧力を掛けて、最後のシュートを苦しめ、シュート率を落とすように圧力をかけることが大切です。
  2. ビジョン
    5人の協力でディフェンスする際、ボールの位置によって一人一人のポジションが変わってきます。
    今はヘルプのポジションなのか(見方が破られた時ヘルプする)、ディナイしてボールを持たせてはいけないのか。つまり、ボールの位置を常に視野(ビジョン)に入れて、自分の今の仕事を明確にしておくことが大切になります。
  3. コミュニケーション
    ボールが動いた時にボールマンを守る選手が「ボール!」と言ってボールの場所を知らせる。スクリーンに動いた選手についている選手は、必ず味方に「スクリーンに行った!」という状態を知らせなければなりません。大きな声を出してお互いに確認し合う。最も「チームディフェンス」の意識が高くなる要素となります。

次回その2では、「ディフェンスのより技術的な側面」について考えて見たいと思います。

高木 彰氏プロフィール

高木 彰氏

1949年
1月22日生まれ 東京都出身
1971年
日本鉱業株式会社(現:ENEOS) 入社
1978年
現役引退後 同社バスケットボール部アシスタントコーチ 就任
1979年
日本大学バスケットボール部ヘッドコーチ就任
(全日本学生バスケットボール選手権大会  3回優勝
関東男子学生バスケットボールリーグ戦  3回優勝
関東男子学生バスケットボール選手権大会 2回優勝)
1986年
日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部
ヘッドコーチ 就任
(全日本総合バスケットボール選手権  2回優勝)
1994〜1998年
ジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部 総監督
1998〜2003年
バスケットボール女子日本リーグ機構 理事・広報部長
2004年〜
バスケットボール女子日本リーグ機構 理事
2003〜2014年
日本文化出版(株)月刊バスケットボール技術顧問
2004〜2008年
実業団男子バスケットボールチーム ヘッドコーチ
2009〜2010年
JBAエンデバーWG委員
2010年〜
東京国体成年男子アドバイザー・技術顧問

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