日本大学バスケットボール部、日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部のヘッドコーチ時代を経て、1994年からジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部の総監督に就任した高木彰氏。その高木氏が、「チームを強くするには?」ということを今一度考え、「チームを率いる指導者がはっきりとした理念を持てば、チーム力が底上げされるし、選手たちも上達する」という結論に達しました。高木氏が指導者の皆さんの悩みや疑問に答え、チームの発展に協力するクリニックです。
今回は「選手を伸ばす」について、2回に分けてお送りします。
中学校の場合、1年生が入部してから直ぐに春の大会。戦力になる1年生は数少なく、ミニバスケットボールを経験している1年生なら試合に使うこともできるでしょうが、やはり入部して直ぐには中々チームの一員としては機能し難いのではないでしょうか。そして、全国大会の予選・本戦が夏休み中に終わり3年生が引退します。
指導者の先生方は、その後から2年生、1年生をチームの主力として、今度は新人戦が11月から年内一杯に行われます。
そして、春になると新入生を迎えて、あっという間に春の大会。ついこの間入って来た1年生が直ぐに2年生になり、また夏を迎えると3年生が引退します。
そんな流れではいでしょうか。
いろいろな所で先生方に話を聞くと、夏はまだ良いのですが、冬になると日が落ちるのが早く、3時半頃に授業が終わって、だいたい4時頃から練習を始めても5時過ぎには暗くなるので早く帰宅させなければならず、練習時間が1時間足らずと短い。しかも週に3日程度しか練習が出来ない。そんな話を聞きます。
こう考えると、最も体が発達する時期に中々じっくりと選手を育てることが難しい状況のようです。
チームを預かる指導者の先生方は、「強いチームを作りたい」「勝てるチームを作る」等、目標を高くして毎年毎年新しいチーム作りの連続です。
そして、毎年チームのメンバーは背の高さや、運動能力等の違う子供たちが入部してきますから、ある年は機動力がある走れるチーム。ある年は高さを生かしてシュート確率の高いチーム等々。毎年違う観点でチーム作りをしているのではないでしょうか。
前回、「チーム(集団)の中の個の役割」という話をしました。チーム作りも全く同じことが言えると思います。
つまり、バスケットボールはチームスポーツですから、どうしてもチームとしての形を優先してしまいますが、実はチームの中の個(個人)を伸ばすことがチーム力を上げるには早道なのです。
チームとしての力をつけることも大切なことですが、やはり個々の選手達を成長させることを優先させることで、チーム力が上がる、と考えた方が良さそうです。
では、どうやって選手個々を伸ばすか、ということになります。
良くこんな話を聞きます。「あの子は大きいから中で頑張って欲しいんだけど、接触が嫌いで中々上手くならないんだ」。「あいつはシュートが上手いけど、ディフェンスしなくてねー」等々。
毎日選手達を見ている先生方は、どうしても選手達の欠点が目に付きます。だから、チームのためにその欠点を矯正しようと考えがちです。
そこで、ちょっと考えてみてください。大きいからセンター、小さいからガード等と、固定観念に縛られていないでしょうか?
この年代の子供たちは急激に成長することがある時期です。急に身長が伸びたような子供は体が細くて、人との接触を苦痛に感じているかもしれません。
例えば、その選手がある時期小さくてガードだったかもしれませんね。ところが大きくなったので、「センター」を要求されているとしたら、突然なれないことを強いられているかも知れない、ということです。
特にインサイドでのプレーは、体力的にも精神的にもかなりの強さが要求されるものです。
人間は自分の体の幅というものを自然に理解し、意識していくはずです。体が大きくなればそれに伴って力を発揮するようになります。
もし、ボールハンドリングが上手ければ、身長が高くてもガードでも良いのではないでしょうか。
もしかしたら、身長は小さいけれど体の幅があり人との接触が好きな選手がいるかもしれません。その選手をセンターに使っても良いのです。
大きいから「センター」。小さいから「ガード」というような固定観念ではなく、その選手の長所を見極めて伸ばしてあげることが大切です。
また、シュートが良く入るけど、ディフェンスしない選手がいたとします。その選手にディフェンスを頑張るように鍛えていませんか?
やっと少しディフェンスができるようになったころ、今度はシュートが入らなくなっていて、「結局使えないなー!」といったケースはありませんか?
その選手には、「お前の仕事はシュートを入れることなんだから絶対に決めて来い!」と指導します。
ディフェンスの弱点は「ディフェンスは全員で協力するんだ!」と教えます。
そのうちその選手も回りに影響を受けて、徐々にディフェンスをするようになるかもしれません。
チームを強くしよう!選手を上手くしよう!と考えると、どうしてもその選手の欠点が目立ちます。考え方として、短所を矯正しようとするのではなく、短所が見えなくなるくらい長所を伸ばす方が早いのです。
次回は「選手を伸ばす」その2でお会いしましょう。