ENEOSバスケットボールクリニック

スペシャルアドバイザー高木彰氏のコーチングクリニック

日本大学バスケットボール部、日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部のヘッドコーチ時代を経て、1994年からジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部の総監督に就任した高木彰氏。その高木氏が、「チームを強くするには?」ということを今一度考え、「チームを率いる指導者がはっきりとした理念を持てば、チーム力が底上げされるし、選手たちも上達する」という結論に達しました。高木氏が指導者の皆さんの悩みや疑問に答え、チームの発展に協力するクリニックです。

第12回:ファーストブレーク(速攻)

「ファーストブレーク」という言葉を聞くと、「トランジションゲーム」(切り替えを早くして走る戦略)を思い浮かべる方も多いと思います。
しかし、「ファーストブレーク」というのは、ただボールを早くフロントコートに運ぶことではなく、アウトナンバー(3:2や2:1で、オフェンスが数的に有利な状態)を作り出し、レイアップシュート(ゴール下のシュート)に持って行くことを意味します。

【ファーストブレークの威力】

私のかつての経験から考えると、やはりファーストブレークに持っていけるチームが作れた時は、それなりの成績を残せたことが多かったような気がします。
しかし、足が速く、走ることが得意でも、セットオフェンスになったときに得点率が低い場合は、結果は伴いませんでした。
いわゆる「ラン&ガン」(走っては早くシュートまでもって行くような戦略)を取り入れた時もありましたが、相手のセットオフェンスが上手く、シュート率が高いチームの場合、結局自分たちの速さが生かせずに勝てなかった経験もあります。
要は、いかに効果的にファーストブレークを出せるか、ということが大切なようです。

ファーストブレークを効果的に使えるチームが、相手に与える最も大きなダメージは、シュートに対する「プレッシャー」だと思います。つまり、ファーストブレークを上手く出す為には、一つは厳しいディフェンスでのシュートに対するプレッシャーがありますが、「走られる!」という心理的なストレスが常にある状態でシュートをしなければならないからです。「シュートが落ちたら走られる!」という心理です。
更には、オフェンスがリバウンドに入ることも躊躇させることにも繋がります。

ファーストブレークを上手く出す為には、強力なディフェンス力とディフェンスリバウンド力が不可欠です。ディフェンスで相手のシュートを苦しめ、シュート確率が低くなった所を確実にリバウンド。アウトレットパスを素早く出して、アウトナンバーから確率の高いレイアップに持って行く。
試合の流れの中で、要所でファーストブレークが出せれば、相手に与えるダメージは相当大きくなってきます。

指導者の中には、ファーストブレークの際の選手の走るコースやボールの出し方等について、決まった形で指導する方もいるようです。私はどちらでも構わない、と思っています。
つまり、チーム作りの考え方が優先されるべきで、例えば、オフェンスがナンバープレー主体で組み立てるのであれば、リバウンドを取った後からナンバープレーが始まる、と考え、フリーランスやモーションオフェンス(前回「オフェンスのフィロソフィー」を参照)主体であれば、その時々の選手の判断にゆだねる(オールコート・モーションオフェンス)ということで良いと思います。

【ファーストブレークからセットオフェンスへ】

速攻を武器に!しかし、ファーストブレークを出しても常にアウトナンバーが出来てレイアップに持っていける訳ではありません。相手も止めようとして必死に戻ってきます。オフェンスとディフェンスが同数以上(3:3、4:4、2:3、3:4等)になった場合、無理をしてアウトナンバーに持っていこうとすると、パスのコースを読まれてカットされたり、無理なドリブルで突進しようとして、ターンオーバーのミスにつながることが多くなってしまう可能性が出てきます。従って、どの時点でアウトナッバーを作ることから、いわゆる「アーリーオフェンス」(「セカンドブレーク」→2次速攻)に切り替えるか、と言う判断が大切になってきます。
その判断力を高めるのもファーストブレークを上手く出すための重要な要素となります。

「アーリーオフェンス」と言うのは、ディフェンスに追いつかれた場合、4番目、5番目の選手が(多くの場合、センターかパワーフォワード)が、大きく広がったレーンのエリアに後ろから飛び込んで行って、ポストエリアでボールを受け、レイアップを狙うか、アウトサイドへボールをスキップさせてアウトサイド(3PTSシュートも含め)を狙って行きます。
特に最近は選手のシュート技術がかなり向上してきた事から、このタイミングでコーナーやトップから3PTSが有効になるのではないでしょうか。

しかし、私の考えとしては、これも余り強引にシュートに持っていこうとすると、先ほどお話をした「ラン&ガン」にもなりかねません。つまり、ボールの保持を簡単に失うようなことは避け、セットオフェンスに入るための手続き。と考えています。ボールの保持を失わず、上記の動きでスムースにセットオフェンスに入れて、確率の高いオフェンスが出来れば、相手に対する体力的なダメージも更に大きくなるでしょう。

次回は「ルールの話」でお会いしましょう。

高木 彰氏プロフィール

高木 彰氏

1949年
1月22日生まれ 東京都出身
1971年
日本鉱業株式会社(現:ENEOS) 入社
1978年
現役引退後 同社バスケットボール部アシスタントコーチ 就任
1979年
日本大学バスケットボール部ヘッドコーチ就任
(全日本学生バスケットボール選手権大会  3回優勝
関東男子学生バスケットボールリーグ戦  3回優勝
関東男子学生バスケットボール選手権大会 2回優勝)
1986年
日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部
ヘッドコーチ 就任
(全日本総合バスケットボール選手権  2回優勝)
1994〜1998年
ジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部 総監督
1998〜2003年
バスケットボール女子日本リーグ機構 理事・広報部長
2004年〜
バスケットボール女子日本リーグ機構 理事
2003〜2014年
日本文化出版(株)月刊バスケットボール技術顧問
2004〜2008年
実業団男子バスケットボールチーム ヘッドコーチ
2009〜2010年
JBAエンデバーWG委員
2010年〜
東京国体成年男子アドバイザー・技術顧問

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