日本大学バスケットボール部、日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部のヘッドコーチ時代を経て、1994年からジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部の総監督に就任した高木彰氏。その高木氏が、「チームを強くするには?」ということを今一度考え、「チームを率いる指導者がはっきりとした理念を持てば、チーム力が底上げされるし、選手たちも上達する」という結論に達しました。高木氏が指導者の皆さんの悩みや疑問に答え、チームの発展に協力するクリニックです。
バスケットボールの指導者である以上、「チームを勝たせたい」「強いチームを作りたい」、というのは当然だと思います。
しかし、本当に「勝つ」ことだけが必要なことでしょうか?
皆さん、忘れていませんか。
小学生の頃や中学生の頃、先生からかけてもらった一言。今、一生懸命子供達を上手くさせよう、強くさせようと頑張っている指導者の方々も、そんな子供の頃の思い出がありませんか?
当時の指導者の何気ない一言が、今の自分の支えになっていることはありませんか?
日頃コートの上で皆さんが言葉をかけているひと言ひと言を、子供達はきっといつまでも覚えていて、大人になってからふと何かに気付くこともあるかもしれませんね。
一生忘れない一言が。
だから、勝つことよりもっと大切なことがあるような気がします。
最近、街を歩いていて気付くことがあります。前から歩いてくる若者が、耳には大きなヘッドホン。目線は手元の携帯電話。おそらく音楽を聴きながら携帯メールで待ち合わせでもしているのでしょうか。
前から歩いてくる人の足音も聞こえない。周りの人の気配や動きが見えない。するとどうなります? ぶつかってしまうこともありますよね。
周りには多くの人たちが行き交っています。私もぶつかってきた若者に睨まれたことが何回もあります。
そんな時、「回りに人が多いから、立ち止まってメールした方が良いよ。それから耳をふさいでいると車のクラクションも聞こえないだろ?」と注意します。
更に凄い形相で睨みつけて立ち去っていきます。
「集団(社会)の中の個の在り方」と、私は考えています。
バスケットボールのチームは集団(社会)です。その中の個人の役割がチーム作りの土台になります。
社会の中で生きていくということは、それと全く同じだと私は思っています。
チームには、ルールやマナーがあります。それを作っておかないと集団はばらばらの方向に向かって動いていってしまいます。
今バスケットボールに目を輝かせて頑張っている子供たちに、そんな大人になって欲しくない。
決められたことをきちんと守る(Discipline)。チームのために献身的になれる(Dedication)。
バスケットボールを通してそんな簡単なことで良いから身につけて欲しい。
勝つことは大切なことには間違いはありませんし、目標として高く掲げておくことも大事です。
しかし、目先の勝利にこだわりすぎると、オフェンスをどうする? ディフェンスをどうする? という技術的なことばかりに意識が集中し過ぎて、子供達を人間として育てる、という側面を見失うことがありがちです。
子供たちの将来の方が多分、勝利より優先されるべき、と私は考えます。
目標に向かっていかに努力したか、チームメートとどんな協力ができたか、と言う方が勝つことよりもっと大切なことなのではいでしょうか。
「いかなる時も瞬時に正しい判断ができる力」「何に対しても力強く立ち向かって行く勇気を持つ」。
この二つが私の指導者としての信念です。
「コーチングフィロソフィー」というような言い方もありますが、子供達をコートの上で指導するに当たり、先ずはこの考え方を参考にして頂いて、指導者の皆さんのフィロソフィーを構築してください。
それは、独自の理念で良いのです。難しく考える必要もありません。今自分にできること。子供たちに伝えたいこと。どんな大人になって欲しいか。そんなことから考えていけば簡単に見つかるはずです。
子供たちにとってコーチというのは、良くも悪くも将来に大きな影響を与える、というように考えてください。
次回は「選手を伸ばす」でお会いしましょう。