ENEOSバスケットボールクリニック

スペシャルアドバイザー高木彰氏のコーチングクリニック

日本大学バスケットボール部、日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部のヘッドコーチ時代を経て、1994年からジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部の総監督に就任した高木彰氏。その高木氏が、「チームを強くするには?」ということを今一度考え、「チームを率いる指導者がはっきりとした理念を持てば、チーム力が底上げされるし、選手たちも上達する」という結論に達しました。高木氏が指導者の皆さんの悩みや疑問に答え、チームの発展に協力するクリニックです。

第8回:危険な「ながら歩き」

バスケットボール界はシーズン真っただ中。毎月何らかのカテゴリーの試合が開催されていて、各カテゴリーそれぞれ特徴ある試合を見ることができます。
会場へ伺うと必ず観客席のある一角に集まってビデオカメラで試合を撮影しているチーム関係者の姿が目につきます。
自チームの試合の模様。対戦チームのスカウティング等です。
今やスポーツの世界はいわば情報戦。選手個々の特徴やチームの戦略・戦術を撮影して、次戦の為にそれらを分析して勝利を目指そうとするものです。

最近ではスタッツ(Statistics=成績、数字データ)の分析や映像を解析するコンピューターソフトまで開発されていて、それらの情報をより正確に分析しチームの戦略・戦術に役立てようとしています。
情報分析をより速くやったチームが勝利に近づくのかもしれません。IT化(情報技術)は確実にスポーツ界にも浸透しています。

話は変わりますが、皆さんは子供のころ母親から「危ないからちゃんと前を見て歩きなさい!」って言われた記憶はありませんか?
最近街を歩いていて思わずそう叫んでしまいそうなことがたくさんあります。「ながら歩き」です。

1979年に「自動車電話サービス」が始まって以来、携帯電話は発売から30年以上が過ぎて驚異的な普及を見せ、今では携帯電話という概念ではなくもはや携帯コンピューターと言っても良いでしょう。
取り扱いや機能も年々発達しとても便利なツールとなっています。これまで電話といえば相手と通話することが主な使い方でしたが、コンピューター技術やインターネット網の発達により、今では「スマートフォン」や「タブレット型端末」へと形を変え急速に普及、一種のファション感覚のように多くの人達が持つようになりました。
メールや地図、ナビゲーション、ゲーム、音源、ワンセグ(テレビ)、カメラ、インターネット、スケジュール管理等々、バスケットボールのスタッツアプリケーション等もあるようですが、様々な機能を充実させたとても便利な手の平サイズのコンピューターです。

ところが、最近テレビの報道番組等で歩きながらスマートフォンを操作していての事故の危険性が指摘されるようになってきました。人同士の衝突や駅のホームからの落下事故。特に子供や視覚障碍者を蹴飛ばす事故や自動車、自転車との接触事故等が多くなっているようです。

そう言われてみると確かに朝の混雑した電車内でも多い時で5人のうち3人〜4人もの人が端末画面を見ています。そしてその殆どの人が指先で画面を、「ピッピ」(音は出ませんが)と弾くように操作しています。下を向きながら腕を上げて操作していますから混雑しているのにかなり広いスペースを取っています。そして画面に集中するあまり後から乗り込もうとする人達に全く気付こうとせず、ドアの近辺から奥へ詰め合わせてくれません。車内の中程が空間になっていて押されて初めて、しかも一気に移動するものですから、多くの人が倒れ込みそうになるのです。なにも混んだ電車に乗っている間に見なくても…。

駅のホームや階段でも耳には同じ携帯端末からイヤホンを繋げて音楽等を聞いているようで周りの音も聞こえ辛いはずで、更に前方を見ないで歩いて人が正面から接近して来てぶつかってから気がつく人。大勢の人が階段を昇り降りしているのに流れを止めてしまっている人。他人に迷惑を掛けているし非常に危険な状態です。

ではなぜ歩きながらでも画面を見ているかというと、「新しい情報入手」と同時に画面が常に新しくなることでその刺激に反応するらしいのです。しかし、歩きながら新しい情報を入手する必要があるのでしょうか?
情報を入手することで人は判断し、行動するのですが、それを目的とせず、入手すること自体、つまり手段が目的になっているということで、いわば道具を操るうちに道具に操られていることになっているのではないでしょうか。
それが周りを気にせず自分の世界に入り込み過ぎて事故が起きているということに繋がっているのだろうと思います。
まわりの状況をよく見て、今自分はどうあるべきかを考えられるようになってほしいですね。
IT化によって人の暮らしは以前に比べ格段に便利になったような気がします。しかし使い方を間違った場合こんなに危険と隣り合わせだとは考えてもみませんでした。

以前からこのコーナーで他人を思いやること、周りへの気配り、ルール遵守や公共マナーなどについて再三述べてきました。

バスケットボールは、常にまわりの状況を判断しながら先を予想する力などを研ぎすませてプレイをすることが大切なスポーツだと思います。
その中で選手の成長に欠かせないのがチームメイトを尊敬する心や思いやり、感謝の心等を持つこと。社会でのマナー、ルールの尊重等。
当たり前のことですがチームを作り上げて行くときに不可欠な要素でもあります。
「選手をうまくしたい!」「チームを強くしたい!」というのは指導者が常に考えていることですが、選手たちにはバスケットボールが上手であれば良い、チームが強ければ良いということだけではなく、バスケットボールから離れて社会人となったとき、常にまわりに気配りができるような人間に成長してほしいと思っています。
常に前を向いて歩きたいではありませんか。

高木 彰氏プロフィール

高木 彰氏

1949年
1月22日生まれ 東京都出身
1971年
日本鉱業株式会社(現:ENEOS) 入社
1978年
現役引退後 同社バスケットボール部アシスタントコーチ 就任
1979年
日本大学バスケットボール部ヘッドコーチ就任
(全日本学生バスケットボール選手権大会  3回優勝
関東男子学生バスケットボールリーグ戦  3回優勝
関東男子学生バスケットボール選手権大会 2回優勝)
1986年
日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部
ヘッドコーチ 就任
(全日本総合バスケットボール選手権  2回優勝)
1994〜1998年
ジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部 総監督
1998〜2003年
バスケットボール女子日本リーグ機構 理事・広報部長
2004年〜
バスケットボール女子日本リーグ機構 理事
2003〜2014年
日本文化出版(株)月刊バスケットボール技術顧問
2004〜2008年
実業団男子バスケットボールチーム ヘッドコーチ
2009〜2010年
JBAエンデバーWG委員
2010年〜
東京国体成年男子アドバイザー・技術顧問

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