ENEOSバスケットボールクリニック

スペシャルアドバイザー高木彰氏のコーチングクリニック

日本大学バスケットボール部、日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部のヘッドコーチ時代を経て、1994年からジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部の総監督に就任した高木彰氏。その高木氏が、「チームを強くするには?」ということを今一度考え、「チームを率いる指導者がはっきりとした理念を持てば、チーム力が底上げされるし、選手たちも上達する」という結論に達しました。高木氏が指導者の皆さんの悩みや疑問に答え、チームの発展に協力するクリニックです。

第6回:叱るか怒るか

バスケットボールを志す子供たちや親御さんから次のような質問が寄せられることがあります。
子供:コーチの先生がミスをすると直ぐに怒ります。怒られるとそれがプレッシャーになって思うようにプレーができません。どうしたらいいですか?辞めた方が良いのでしょうか?」
親:子供がミニバスケットボールをやっています。まだへたくそなのですが、ミスをするとコーチが怒ります。あれでは子供が萎縮してうまくならないのではと心配しています。コーチに直接話をするべきでしょうか?」
というような内容です。

「怒る」という表現が目立ちますが、本当に「怒っている」のでしょうか。
指導者の仲間たちとチーム作りやバスケットボールの技術論等の話をしていると必ず選手の話になります。誰々選手は気持ちが強いとか、シュートはうまいけどディフェンスをしなくてね。等々です。そんな中で選手がプレーだけではなくコートを離れた普段の学校生活等でいろいろと失敗するときの話になることが多いのですが、「○○をきちんとやっておくようにいったけどやらずにいた。無責任だから叱っておいたら次からはきちんとやっていた」というようなことです。多くの指導者と話をしていても「怒った」表現する人は少ないのです。

では、「叱る」と「怒る」はどう違うのでしょうか。
「怒る」というのはどうも感情的なもので、「腹が立った」「頭に来た」、今の若者たちは「むかついた」というよう表現になるようなことではないでしょうか。
つまり、「腹を立てて激怒した」「真っ赤になって怒った」というように怒りの感情が前面に出て来るものです。
一方「叱る」というのは先程の話から考えると、指導的な要素が大きいのではないでしょうか。つまり指導する側と指導される側の関係がお互い理解できているもので、選手と指導者、親と子、先生と生徒等々の関係だと思います。叱ることはその人に対する愛情があって、人生観や価値観にも共通するものが無ければ叱れないのだろうと思われます。

子供たちが「怒られた」と言っているのは多くの場合「叱られた」のであって、指導者の先生が子供たちに対して腹を立てているのではく、いわゆる「指導」あるいは「注意」しているということではないかと思われます。中にはかなり声の大きい指導者もいて、怒鳴っているように聞こえてしまう人もいますから余計に「怒られた」と感じるのかもしれませんが。

最近親が子供を叱らない、という話を聞きます。どうも親御さん自身が「叱る」と「怒る」を勘違いしている傾向がありそうです。「怒るとすくふてくされる」「怒ると反発する」「怒るとすぐキレる」というようなことですが、それは感情的になって怒鳴ってしまうと相手を否定するような言葉が出てしまい、子供からすれば「怒られた」と感じてしまうのだろうと思います。
例えば、自分の子供が周りに迷惑を掛けているとします。そんな時「周りに迷惑がかかるから止めなさい!」というようなことが「叱る」「注意」することです。
「バカ!何やってんだ!」ということではありません。

子供が親の意にそぐわないことをやったとき、腹を立てて怒るとついつい感情的になってしまいます。人間ですし血のつながった家族として四六時中一緒にいるわけですからたまには腹を立てることがあっても当然だと思います。そこで気を付けなければならないのは、怒る相手の人間性(人格)を否定してしまってプライドを傷つけたてしまわないことではないでしょうか。
自分が否定されるからふてくされたり、やる気を失ったり、反抗的になってしまうのだろうと思います。

聞いている方が「怒られた」と感じるより「教えられた」と感じさせることが大切だということでしょう。その大きなポイントは叱る対象の子供にどれだけの愛情があるか、ということだと思います。つまりその子供の為を思うこと。自分の言葉で、はっきりとした理由を明確にし行動そのものについて叱るのが良いのでしょう。

勝つチームを作っていこうとするとき、選手たちにチームとしてやらなければならない個人の役割を指導して行く。いわば社会性を身に付けさせるための「躾」。
自分の子供であろうが他人の子供であろうが、多くの大人達が共通の目で見ておく必要がありそうです。

高木 彰氏プロフィール

高木 彰氏

1949年
1月22日生まれ 東京都出身
1971年
日本鉱業株式会社(現:ENEOS) 入社
1978年
現役引退後 同社バスケットボール部アシスタントコーチ 就任
1979年
日本大学バスケットボール部ヘッドコーチ就任
(全日本学生バスケットボール選手権大会  3回優勝
関東男子学生バスケットボールリーグ戦  3回優勝
関東男子学生バスケットボール選手権大会 2回優勝)
1986年
日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部
ヘッドコーチ 就任
(全日本総合バスケットボール選手権  2回優勝)
1994〜1998年
ジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部 総監督
1998〜2003年
バスケットボール女子日本リーグ機構 理事・広報部長
2004年〜
バスケットボール女子日本リーグ機構 理事
2003〜2014年
日本文化出版(株)月刊バスケットボール技術顧問
2004〜2008年
実業団男子バスケットボールチーム ヘッドコーチ
2009〜2010年
JBAエンデバーWG委員
2010年〜
東京国体成年男子アドバイザー・技術顧問

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