ENEOSバスケットボールクリニック

スペシャルアドバイザー高木彰氏のコーチングクリニック

日本大学バスケットボール部、日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部のヘッドコーチ時代を経て、1994年からジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部の総監督に就任した高木彰氏。その高木氏が、「チームを強くするには?」ということを今一度考え、「チームを率いる指導者がはっきりとした理念を持てば、チーム力が底上げされるし、選手たちも上達する」という結論に達しました。高木氏が指導者の皆さんの悩みや疑問に答え、チームの発展に協力するクリニックです。

第5回:スポーツマンシップ

甲子園で夏の高校野球が行われました。今年の夏は異常気象のせいでしょうか、特に暑く記録的な気温になっていたのではないでしょうか。

そんな中で高校球児達が真っ黒になって熱い戦いを見せてくれました。各県の予選を勝ち抜いてきている精鋭だけに地元の名誉も掛っていて応援団も含めて夏の一大イベントとして定着しています。
毎年歴史に残るような好ゲームが続出していて、今回もこの球児達から将来のプロ野球選手も多数出てくることでしょう。
そして今年栄冠を勝ち取ったのは興南高校。沖縄県勢として初めて夏を制しました。

今大会にちょっとした話題になっていることが記事なっているのを見つけました。
それは選手たちが試合中に喜びを表現するチームと喜びを表に出さないチームの話題でした。
優勝した興南高校は県予選の決勝戦を大差で全国大会(甲子園)出場を決めた瞬間に、野球でよく見られる全員がマウンドに集まって喜びを爆発させることなく、淡々とホームベース付近に整列をしたということです。このチームはホームランを打っても黙々とベースを一周していたことが伝えられていました。
新聞紙上には監督談が掲載されていて、

「高校生ですからね、喜怒哀楽はあります。しかし、相手もいることです。それを表に出すのではなく、中身が闘志を燃やせばいいわけです。精神的なコントロールをする。舞い上がるのではなく、足元を見つめた野球をする」

という監督の方針だったのです。
良いプレーをしたとき喜びを爆発させ派手なガッツポーズを見せていても、一旦ピンチになったとき落ち着きが無く、なおさらピンチを迎えてしまう。という内容でした。

一方、喜びを爆発させる典型的なチーム同士が1回戦で対戦しました。この勝者が3回戦で上述の興南高校と対戦し敗れたのですが。

両チームの選手が一喜一憂しながら9回表、5−3とリードしているチームはこの回を押えれば一回戦突破。ところがリードされているチームが驚異的な粘りを見せます。1点を返して5−4とし、さらにヒットで2アウト満塁。一打同点か長打が出れば逆転の場面。そして次のバッターが平凡なセンターフライを打ち上げたのです。マウンド上のピッチャーはほっとしたのでしょう。笑顔でガッツポーズを見せ打球を見るのもそこそこに試合終了の準備でしょうか、マウンドを降りてホームベースに向かって歩き始めました。次の瞬間センターの選手がこの球を落球。さらに二人が帰って6−5と逆転。ピッチャーはそのとき笑顔を見せてホームベース方向に歩き出していて落球の瞬間を見ていなかったようで、選手や観客の大きな声で気が付いたのでしょう。次の瞬間信じられない顔をして呆然としていました。

ドラマはこれだけでは終わらなかったのです。続く9回裏の出来事。逆転されたチームも同じように簡単に2アウトまで進んだ後、二つのデットボールで2アウト1、2塁と粘ります。そして次のバッターが左中間にヒット性の当たり。打ったバッターはその当たりを見てこれまた一塁へ走る途中で拳を上げ、満面の笑顔てガッツポーズを見せたのです。完全にヒットだと確信したのでしょう。ところがレフトの選手が猛ダッシュでボールをダイビングキャッチ、3アウトとなり結局再逆転はならず試合終了となってしまったのです。
最後の最後により喜びを爆発させていたチームにそのほころびがより大きく出た、ということでしょうか。

これはあくまで結果なので、喜ばないから勝った。喜びを爆発させるようだから負けた、という評価ではないと思いますが、審判の合図があったときに初めて判定が出るわけで、自分で判定してしまって喜びを表現してしまった【油断】が結果に出たのではないでしょうか。

バスケットボールも同じで、ボールがリングを通過して初めて得点が認められ、審判の笛が鳴って時間が止まり、それがファウルだったりバイオレーションだったりするのです。自分でジャッジしてプレーをすることは敗戦を意味します。

バスケットボールの試合等でも時々みられるのがシュートを決めてガッツポーズをしている間に反転速攻を出されて簡単に得点を許してしまうような場面です。
そんなときよく指導者から大きな声で「余計なことをやっているからだ!直ぐに切り替えてディフェンスしろ!」というような声が聞こえてきます。しかし、こういった光景はおそらく普段の練習中から予兆があったはずです。試合中に出たからと言ってそのときに大きな声で叱責しても既に遅い、ということ。
よく「練習は嘘をつかない」ということが言われます。試合に出てくることは普段の練習でも出ている、ということだろうと思います。
そのちょっとした油断が、勝敗の掛った大切な場面で出てしまうのでしょう。

試合は相手があって成り立ちます。自分たちと清々堂々と戦ってくれているのです。自分たちが良いプレーができたからといって、ところかまわず喜びを爆発させる、ということは相手を尊重する態度ではないと考えます。冒頭の監督談の中の「相手もいること。中身が闘志を燃やせばいい」。これは本当の意味で【スポーツマンシップ】ではないでしょうか。
そして何事も目の前にあることに対して感情に左右されず全力で当たる。これが人生の基本ではないでしょうか。

高木 彰氏プロフィール

高木 彰氏

1949年
1月22日生まれ 東京都出身
1971年
日本鉱業株式会社(現:ENEOS) 入社
1978年
現役引退後 同社バスケットボール部アシスタントコーチ 就任
1979年
日本大学バスケットボール部ヘッドコーチ就任
(全日本学生バスケットボール選手権大会  3回優勝
関東男子学生バスケットボールリーグ戦  3回優勝
関東男子学生バスケットボール選手権大会 2回優勝)
1986年
日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部
ヘッドコーチ 就任
(全日本総合バスケットボール選手権  2回優勝)
1994〜1998年
ジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部 総監督
1998〜2003年
バスケットボール女子日本リーグ機構 理事・広報部長
2004年〜
バスケットボール女子日本リーグ機構 理事
2003〜2014年
日本文化出版(株)月刊バスケットボール技術顧問
2004〜2008年
実業団男子バスケットボールチーム ヘッドコーチ
2009〜2010年
JBAエンデバーWG委員
2010年〜
東京国体成年男子アドバイザー・技術顧問

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