日本大学バスケットボール部、日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部のヘッドコーチ時代を経て、1994年からジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部の総監督に就任した高木彰氏。その高木氏が、「チームを強くするには?」ということを今一度考え、「チームを率いる指導者がはっきりとした理念を持てば、チーム力が底上げされるし、選手たちも上達する」という結論に達しました。高木氏が指導者の皆さんの悩みや疑問に答え、チームの発展に協力するクリニックです。
いろいろな大会へお邪魔して試合を観戦させてもらう機会が多いのですが、試合に臨む「準備」はチームによってまちまちです。
それはおそらく「伝統」というようなもので、先輩方から受け継がれたそれぞれのチームとしてのルーティーンがあるような場合と、指導者の先生が工夫をして、試合が始まったときに最高の状態に持っていくため一種のセレモニーのような場合があるのだと思います。
しかし、この準備が充分でないとコーチも選手も不安になり、試合で日頃鍛えてきた力が充分に発揮できないことになってしまいます。
その準備とは体調や食事、試合で使う道具、戦いに出る心の準備、ユニフォーム類や女性の場合は髪の毛を束ねるゴムバンドだったりするのです。つまり戦いに入るためのすべての準備です。
当然試合に備えて相手のスカウティング、戦術や戦略等も試合前までに完璧に整えて試合を迎えるわけです。指導者の方々にこんな話をすれば「当然だよ!」「当たり前だろ!」という答えが返ってくるでしょう。それだけ試合に臨むための「準備」というは大切なものです。
話は変わりますが、私は講習会等でよくこんな話をします。
また通勤途中の車内でのできごとになりますが、
「たまたま席が空いていて座れたときに前に座っている女性が小さなバックをおもむろに開いて化粧道具一式を出し、突然お化粧を始めるシーンに出くわしました。昔なら『人前で恥ずかしいからやめなさい!』と母親から叱られたことだったと思いますが、最近は皆さん平気で人前ですごい顔をしてお化粧をするんです。口を大きく開いて喉の奥まで丸見えで、さらに顔の筋肉をどうしても動かさなければならないために、普段の美しい顔が台無しになるような顔をしているんです。そんな女性にしないように躾が大切です。」
という話です。
しかし、電車でのお化粧がこれほど当たり前の風景になってくると、そう考えている自分が変なのかな?、と思ってしまいます。一歩引いて考えると「あー、家で時間が無かったんだろうな」と考えることもできるかもしれません。
我々の世代は父親からよく、「男が一歩外に出ると7人の敵がいる!」と言われ、仕事に出かけるときは何となく気を引き締めて出かけたものでした。その反面「7人の敵?なんだそれ?」というのもありましたが。
ですが私は「多くの敵がいるから心を引き締めろ!」ということだと理解していました。
ですから、それなりの準備を整えて出かけたわけです。
7人の敵がどういうものであるかはよく聞けなかったので大きなことは言えませんが、何となく意味深いものがあったように思います。
仕事場へ行くことだけではなく、人がいったん外へでるということはいろいろな人と接する機会がそれだけ多くなり、まったく関わりのない人、恩師、友達、先輩、後輩等々あらゆる人と出会うことになります。そのときのために「万全の準備」をして行く方が「心に隙がない」ということではないでしょうか。
試合の直前になると。指導者の先生方は必ず子供たちを集めて試合の準備に入ります。持って行く道具、集合時間、場所等々プリントを渡す指導者の方もいると思います。当然試合をするための技術的な準備も万全です。
電車で腰掛けてお化粧をするのではなく、準備する時間も考えて早めに起きることなど、時間を調整することも含めすべて「準備」なのです。そしてすごい顔を他人に見せることなく、気を引き締めて、そして充実して時間を過ごした方があとあとになって自分が幸せな気持ちになるのではないでしょうか。
子供たちに自分のために「万全の準備」をすることの大切さを伝えていかなければいけないと思います。