日本大学バスケットボール部、日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部のヘッドコーチ時代を経て、1994年からジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部の総監督に就任した高木彰氏。その高木氏が、「チームを強くするには?」ということを今一度考え、「チームを率いる指導者がはっきりとした理念を持てば、チーム力が底上げされるし、選手たちも上達する」という結論に達しました。高木氏が指導者の皆さんの悩みや疑問に答え、チームの発展に協力するクリニックです。
手前味噌になるかもしれませんが、バスケットボールというのは他のボール競技と比較しても個人の役割が相当明確になっているスポーツだと思っています。
したがって、コートの上にいる5人の選手、ベンチに控えている7〜10人の選手たちが、チーム(一つの社会)のコンセプトにのっとって一人一人がいかに自分の役割をまっとうするかが「チーム力」という形で表現され、それが試合で発揮され、結果にもつながることになります。
そこでチームの中の「個の役割」ということが非常に大切になってくるのです。
特に個人個人による、チームメート(他人)との連動や協調、調和等が大きなポイントとなります。
つまり「勝つ」という目標に向かって一人一人がやるべき仕事を、「個」が責任を持ってやり遂げることがチーム成功のカギといっても過言ではありません。
そして「個」の力が相乗効果(ケミストリー)でさらに大きくなる場合もあるのです。
話は変わります。
もう何年も前になりますが、ある運動科学の先生の講演を聴きに行きました。
そこで聞いた話は衝撃的で未だに耳に残ってます。
それは、その先生が代々木第二体育館にバスケットボールの試合を観戦に行ったときの話です。試合を終えて選手が大きなバックを肩から掛けてコートサイドから観客席へ上がってきたそうです。
その時出口付近に、机が設置されていて、たまたまその机の上に飲みものが入っている紙コップが置いてありました。階段を上がってきた選手はそのコップに全く気付かず、バックの角でコップを叩き落としてしまいました。それでも全く気付いていなかったそうです。
その先生はその光景を見て、「バスケットボールはアメリカに1000年かかっても勝てない!」と言いました。その先生はなぜそのようなことを言ったのか。
その理由はこうでした。
私は当時コーチを始めた頃でしたからその話が衝撃的で、未だに記憶の深いところに残っているのです。
「バックや大きな荷物はお客様の迷惑になりますので、前に抱えるか網棚にお乗せ下さい」
皆さんはこんな車内放送を聞いたことはありませんか?それでもリュックを背負ったり、前にぶら下げたりしている人が案外多いと思いませんか?
空いている車内であればまだしも、朝晩のラッシュ時によく見る光景です。
人間の身体は肩の幅が最も広い構造になっています。そこにリュックや鞄を背負っていたり肩に掛けていたりすれば、一人、二人は立てるだけのスペースがバックを背負っているため埋められてしまっています。いつも網棚にあげられるとは限りませんから、少なくとも足元に置いておけば何とか収まると思いませんか?
「朝の混雑」は実はこんなことが大きな理由になっているのかもしれません。
当の本人は大きな荷物を持っても電車に乗ることができたとしても、そのせいで乗れない人もいるかもしれません。
「自分だけがよければ…」、と意識的にやっているとは思えませんが、その結果乗れなかった人がいるかもしれない、と気づけなければ、他人に対する思いやりや気遣いが足りないことになります。
自分の身体のサイズ、さらに何か荷物を持ったときの全体のサイズ。30cmのバックを持てば30cm分は大きくなり、さらにその30cmの幅が上下のスペースをも埋めてしまう。
つまり、社会の中でその社会と関わるのに個人のやるべきこと、あるいは自分がどういう状態になっているかをよく理解する、ということが大切になってくる訳です。
チームの指導に携わっている方々、バスケットボールを志している子供を持った親御さん。
日頃の行動や練習中でそれに近いことが起こった場合、選手や子供たちへどうかそんな話をしてあげて欲しいと思います。
【人と調和するためには人を思いやること】
もしかしたら、そういったことが理解できれば「調整能力」が高まってバスケットボールの上達が早くなるかもしれません
どんなときでも人を思いやる心は大切にして欲しいと思います。