日本大学バスケットボール部、日本鉱業(現:ENEOS)バスケットボール部のヘッドコーチ時代を経て、1994年からジャパンエナジー(現:ENEOS)男女バスケットボール部の総監督に就任した高木彰氏。その高木氏が、「チームを強くするには?」ということを今一度考え、「チームを率いる指導者がはっきりとした理念を持てば、チーム力が底上げされるし、選手たちも上達する」という結論に達しました。高木氏が指導者の皆さんの悩みや疑問に答え、チームの発展に協力するクリニックです。
もう5月の頃の少し古くなってしまった話です。
何気なくテレビを見ていたときのお話です。その番組のテーマは「母の日」。父の日よりなぜ母の日が重要視されるのか、というものでした。
そう言われてみれば我が家の子供たちも「母の日」になると何となく花を買ってきたり、声を掛けていることがありますが、残念ながら「父の日」(一応あります)には何のアクションもありません。
やっかみ半分で興味深く見ていたのですが、何組かの親子が出演していて父親の声と母親の声を聞き分けられるかという実験をしていました。まずは全部の父親、母親に犬の鳴きまね声をテープに録音してもらい、その声を子供たち(男女年齢はまちまち)に聞かせて自分の父親の声、母親の声を聞き当てるものでした。
父親として実に悔しいことに、父親の声は聞き分けられなくとも、母親の声は100%聞き分けられたのです。
母親の胎内にいるときから母親の声を覚えているからだということですが、母親と子供の繋がりは我々男性にはいくら頑張っても追いつけないような繋がりがありそうです。
話は変わりますが、先日家の近くの遊歩道でお母さんと2〜3歳位の男の子が一緒に散歩をしている所に出くわしました。坊やはお母さんの後ろをよちよちと歩きながら、周りにあるすべてのものに興味があるようで、真っ直ぐに歩かないであちらこちらにふらふらしたり、突然立ち止まったり、戻ったり。本当に小さい子供の好奇心は旺盛だと微笑ましく思って見ていました。
ところがこのお母さん、携帯電話で何か楽しそうに話をしているではありませんか。仲の良い友達と談笑しているのでしょうか。子供の存在を全く意に介していない様子。そのお母さんに「坊や危ないよ!」と指を差して言うと会釈をしながら子供の方へ駆け寄っていきました。
車やバイクが来ない安全な遊歩道なので問題はありませんが、自転車も行き来しているし、何が落ちているかわからず小さい子供にとっては実に危険が一杯で、さらに大人の目線で見えないものが子供も目線で見えるかもしれないので、興味が湧けば迷わず走って行くかもしれません。
ちょっと「はっ!?」とした数分間でしたが、冒頭の母子の関係ということから考えると心配な場面でもありました。何を話していたかは聞くつもりもありませんでしたが、その様子から今その電話をしなくても家に帰って余裕のあるときで充分間に合うのではないか。子供の様子をしっかり見ていて欲しいと感じられたのです。
携帯電話やパーソナルコンピューターの普及が進み、他人とのコミュニケーション、情報伝達、収集がかなり早くなり、コミュニケーションツールとして非常に便利だと私は感じています。反面どこにいても相手の顔を見なくとも話ができることや、メールのやり取りの文字や絵だけでコミュニケーションが取れていると勘違いしてお互いに本当に伝えたいことや意思が伝わるとは思えず、さらには電車に接触する事故や、ホームや階段から落ちてしまう事故も起きています。使い方を一歩間違えると、周りが見えなくなり非常に危険な道具となってしまうことも事実でしょう。
せっかく赤ちゃんが長い時間、お母さんのお腹の中にいて声を聞きながらコミュニケーションが取れていて母親の声を聞き分けると言っても、生まれて来た途端にお母さんは子供の危険や周りに起こっている事に気付かず、携帯電話で他人とコミュニケーションしているのではそのうち声を聞き分けられなくなり、声が伝わらなくなってしまうかもしれません。そんな事になったら「母娘関係」も崩壊の危機。
そしてその子供たちが成長していったとき、そういったコミュニケーションツールは使い方も含め今よりもっと便利になることでしょう。大人がその利便性と危険性や、コミュニケーションの大切さを子供たちにうまく伝えていかなければならないと感じています。
自分が気付かなければ子供たちにそれを伝えることができないかもしれません。
そして、大人になってもお母さんの声をいつまでも聞き分け、母の日になれば、「お母さんありがとう!」と素直に感謝の気持ちを言葉に出せる【子供】であるならば、誰に対しても感謝の気持ちが持てるだろうし、声にも出せるだろうと思います。
(お父さんにもありがとうと言って欲しいですね。自戒の念も含め、お父さん!頑張りましょう)
チームメートや先生、両親、自分を支えてくれるすべての人々に感謝できる心を持たなければいけないことを伝えていけたらと思います。