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夏の祭典を経て、今の思いと今後に向けて 渡嘉敷来夢 interview

7月末から8月にかけて行われた東京2020オリンピック。その夏の祭典でバスケットボール女子日本代表は、快進撃を続け準優勝。バスケットボール界では初となるオリンピックでのメダル獲得という偉業を達成した。
昨年12月に負った右膝前十字靭帯断裂というケガの影響もあり、地元開催でのオリンピック出場はならなかった渡嘉敷来夢。日本のエースともいえる渡嘉敷は、この大会での日本の躍動をどのような思いで見ていたのか、また膝の回復具合も含め、本人の近況をインタビューでお伝えする。

オリンピックは『自分をギラつかせるキッカケを作ってくれた』

悔しさにしっかりと目を向けた結果、気持ちも上向きに
オリンピックが終わりました。大会前には「全試合見たい」とおっしゃっていました。

はい。日本戦、そして日本戦以外の試合も全部見ました。

まず日本戦、女子日本代表が銀メダルを獲得についての感想をお聞かせください。

つらい合宿を乗り越えていった姿を私も近くで見てきたので、『本当にすごいな』という思いが強いです。それと、銀メダルを取ったことで、日本のバスケットボール界がもっともっと盛り上がれば良いなとも思いました。

同時に、もちろん私自身もオリンピックの舞台に立ちたかったので、本当に悔しかったです。ただ、銀メダルを取ったことによって「絶対にこの人たちに負けたくない」という気持ちも強くなったので、なんかむしろ、うれしいですね。悔しいけれど、また自分をギラつかせるキッカケを作ってくれたという感じはします。

オリンピックで良い結果が出ていなかったら、私はたぶんここまで闘争心を燃やしていなかったと思うんですね。オリンピックに出たかった、悔しかったなという気持ちだけで終わっていたと思うのですが、みんなが良い結果を残してくれたことによって、みんなに負けたくないという気持ちが本当に強くなりました。

決勝は(試合中継の)テレビ局のスタジオからの観戦になりました。

依頼を受けた当初は、オリンピックに出られなかった悔しさもあったので、「日本が決勝に来たらちょっと複雑だな」という思いも正直ありました。でも、大会途中からはさっき言ったような感情に変わったので、(スタジオという)また違った形で試合を見ることができてよかったです。

日本戦について、印象に残った選手、プレーなどはありましたか?

プレーでいったら、パッと思い浮かぶのは、(準々決勝の)ベルギー戦で決めたキキ(林咲希/ENEOSサンフラワーズ)の3ポイントシュートですね(※残り16秒で逆転のシュートを決めた)。

トータルで見ると、日本チームの3ポイントシュートがフォーカスされがちではありますが、1番はコンスタントに点を取っていたリツさん(高田真希/デンソーアイリス)かなと。試合ごとに、アシストがすごかったルイ(町田瑠唯/富士通レッドウェーブ)や、3ポイントシュートを多く決めたキキやアース(宮澤夕貴/富士通レッドウェーブ)たちの名前が上がり、もちろん素晴らしかったのですが、全試合を通して大きな波がなかったのはリツさんだったなと思います。苦しい場面、引き離されそうな場面でリツさんが決めるというのが印象的でした。

日本戦以外、他国のチームで印象に残った選手やプレーなどはありましたか?

ステューイ(ブリアナ・スチュワート/アメリカ代表)は3番で出ている時間帯も長かったですが、彼女のプレーは見ていて勉強になりますね。どんなタイミングでも3ポイントシュートが打てるし、躊躇なくアタックもするので、そこは見ていて楽しかったです。あとはエマ(エマ・メッセマン/ベルギー代表)がコンスタントに点を取るし、良いところで活躍する。やっぱりエースだなと思いました。

名前の挙がったブリアナ・スチュワートとスー・バード、それとジュール・ロイドの3人は渡嘉敷選手がシアトル・ストーム(WNBA)に所属していたときのチームメート。会いたかったのでは?

オリンピックの舞台に立ちたかったのもありますが、海外の選手に会いたかったのもあるんですよね、海外の選手たちと戦いたかった。それが自分自身のモチベーションになるし、(シアトルの元チームメートたちには)ちょっとでも成長した姿を見せて、『おお、タク変わったな』って思ってもらいたいなとも思っていたので…。会場に行って直接手を振るだけでもしたかったです(笑)。それでも、全試合見ることができて楽しかったですが。

オリンピックを経て、モチベーションは上がっている?

もう上がりっぱなしですね。落ち込んではいないです。この悔しさから逃げることはできるけど、そこにしっかりと目を向けた結果、モチベーション、気持ちも上向きになれました。今は『良かった』とは言いたくはないけれど、あと1、2年経ったときに『良かった』『あれがあったから』と言えるんだろうなと思っています。

なんか若い頃というか、アメリカ(WNBA)に行ったときと同じくらいギラついている感じで、「誰にも負けたくない」みたいな、みんなを黙らせたいくらい頑張りたいです。

楽しみですね。

はい。ただ、今シーズンは多分、そこまでグッと上がれないと思うんですよ、(ケガをした)膝のこともあるので。3年をかけて、このギラつきをしっかりと処理していきたいなと思っています。

『その日のベストをしっかりと試合で出せるように』
膝の様子も含めて復帰に向けての具合は?

絶好調です! まだ対人系の練習には入っていないのですが、接触のトレーニングも始めているし、走る系のメニューもスピードをあげているところです。

開幕から逆算しながらやっているので、予定通りですね。今は10月の開幕に向けて、しっかりリハビリをしながらできています。

ただ、試合勘をつかむまでにはある程度の時間が必要になってくるとは考えています。

復帰したときに、どういったところでパワーアップして戻りたいと考えてますか?

プレーよりもバスケットに対する気持ちですかね。なんか、この間も練習中にふと、バスケットって楽しいな、こんなに楽しかったんだって、改めて思ったんです。そう思う理由の一つに昨シーズンから移籍や引退でチームを抜けた選手が多いこともあって。もう一度、このチームで新しく始まるんだと思ったらワクワクして楽しくなってきたんですよね。

技術的な面ではこの1年間で大きく上がるとは思わないので、本当に細かいところ、それにボールへの執着心やしっかりと走ること、一生懸命やることというのを無駄にしたくないなと思います。どんな状況でもその日のベストをしっかりと試合で出せるようにしたいです。

焦りすぎないというのもベテランであり、経験があるからこそなのかなと思います。

そうですね。それとチームの理解もありますね。サンフラワーズのスタッフも100%、120%の力を出すのは、(ケガをした)皇后杯というのをわかっていてくれて、そこに向けてしっかりと取り組めるようにしてもらっているので。

ケガにより途中離脱となってしまいましたが、昨シーズンはチームにとってどんなシーズンでしたか?

正直、全員メンタル的にきつかったと思います。いつも以上に追われる圧というのは、あったと思います。その中で皇后杯を優勝。Wリーグでは負けはしましたが、決勝の舞台に立てたことは、一人ひとりが自信を持てたシーズンになったのではないかなと思います。勝利以上に選手個々の勝ちたい気持ちが前面に出て、私もそれを見ることができて良かったです

そして今シーズンは佐藤清美ヘッドコーチが3シーズンぶりに指揮を執ることになります。

「うわ、懐かしいなこの感じ」と思うこともあるし、「走れ!」という声が体育館で聞こえると、ちょっとゾワっとします(笑)。本当に楽しみです。

私も走らないと試合に出してもらえない。どんなにネームバリューあっても走らないと速攻で交代なので(笑)、30歳でも若い選手に負けずに走ります!

期待したいチームメートはいますか?

3番ポジションの選手には期待したいですね。やっぱりシューターが抜けたこと、誰がどう見てもアース(宮澤)が抜けた穴は1番大きいと思うので。それがキキかもしれないし、リー(奥山理々嘉)になるかもしれないし、テン(藤本愛瑚)になるかもしれない。みんなアースと同じものは持っていなくても、アースと違うところですごくいいものを持っているので、それを私を含めた他の選手が引き出すことができればいいなと思っています。

個人的には3年目のアン(星杏璃)。レア(岡本彩也花)は3年目のときにヘッドコーチが清美さんになり、そこから主力に定着していった選手なんですね。だからちょっとレアとアンをだぶらせてしまうところがあって。3年目の選手たちは、今シーズンでさらに飛躍すれば、それは『岡本コース』なので。アンは気持ちが強いし、期待したいですね。

さて、先日、アジアカップの日本代表候補選手が発表され、渡嘉敷選手の名前もありました。

やっぱり日本代表でプレーしたいという思いは常にあります。今はまだリハビリ段階ではありますが…。

やはり復帰までは焦らないということですね。では最後にファンに向けてのメッセージをお願いします。

いつも応援ありがとうございます。ここまでは順調。復帰までもう少しなので、待っていてください。

オリンピック期間中、『パリで待っています』といったようなメッセージに力をもらいましたし、みなさんからの期待、熱さも感じました。私自身もギラついているけど、ファンのみなさんもギラついてるなと(笑)

私は期待には応えたいタイプなので、背中を押されていると感じる今、練習がしんどくても、みなさんの前でプレーできることを励みに頑張ります。

※氏名の漢字表記においては便宜上JIS第一・第二水準の文字に置き換えております。

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