V11 ENEOS野球部 集合写真

V11 [2013年 / 平成25年] 第11回優勝
第84回都市対抗野球大会

大会に向けて

JX-ENEOSが都市対抗と日本選手権の“夏秋連覇”を達成し、同じく準優勝がJR東日本だったという衝撃は、社会人野球界に選手の採用や育成、チーム作りをあらためて見直す流れを作った。特に、ユニフォームを纏った選手たちが醸し出す品格は、一朝一夕に身につくものではないと見られ、チームはあらゆる面で関心の的となる。もちろん、ライバルチームは密かに「うちがJX-ENEOSを倒す」と意気込んでおり、それが社会人野球のレベルアップにもつながっていた。

この年は、都市対抗の優勝チームがカナダで開催される親善国際大会に派遣されることに決まり、大久保秀昭監督は「連覇への大きなモチベーションになる」と語る。宮澤健太郎から3年目の渡邉貴美男に主将が引き継がれて迎えた2013年のシーズンは、東京スポニチ大会で準優勝、京都大会はベスト4と高いチーム力を発揮し、東北大会では優勝。日本選手権への出場権も手にする。都市対抗には推薦出場するため、各地で二次予選が行なわれていた6月は韓国に遠征。プロ、独立リーグ、大学と、あらゆるレベルのチームと戦い、選手は対応力を磨きながら連覇に挑む気持ちも高めていく。

一回戦、9回裏 代打・山岡剛のレフト前へのサヨナラ弾

第84回都市対抗野球大会は、JX-ENEOSと大阪市・NTT西日本による開幕戦で7月12日に幕を開ける。大久保監督は「橋戸賞に敬意を表して決めていた」と、先発のマウンドに大城基志を送り出す。だが、「本調子ではなかった」という大城は、3回表一死一塁で先制2ラン本塁打を許してしまう。それでも、5回までをこの2点で凌ぎ、6回から三上朋也(現・横浜DeNA)を投入すると、その裏にチャンスが訪れる。井領雅貴(現・中日)の四球を足がかりに二死満塁とし、打席にはルーキーの山﨑 錬が入る。

この年は5名の新人を採用したが、特に野手の山﨑と石川駿(今季まで中日)には、大久保監督が「補強選手に代わる戦力になってほしい」と期待を寄せていた。果たして、山﨑はその期待に応え、ライト線に同点となる二塁打を放つ。そして、ここからは両チームの投手が踏ん張り、2対2のまま延長に突入する。

三番手の沼尾 勲が10回表を3者凡退に斬って取ると、その裏の一死から四番の池邉啓二が右中間を破る二塁打を放つ。代走に前田将希が送られ、二死一、二塁となった場面では、山﨑に代打・山岡剛だ。右肩を痛めてスタメンを外れたものの、打撃面での勝負強さも備えた切り札は見事に左前へ弾き返す。二塁走者の前田は三塁を蹴り、相手捕手の動きを見ながら本塁手前で身体を切り返すと、際どいタイミングでセーフに。3対2の劇的なサヨナラ勝ちで、連覇への挑戦はスタートした。

一回戦、9回裏 代打・山岡剛のレフト前へのサヨナラ弾

二回戦、石川、山﨑の新人コンビの活躍

一回戦の殊勲者が山﨑なら、札幌市・JR北海道との二回戦では石川が躍動する。先発の三上が、1回表に自らの失策から2点を失うと、2回裏に山田敏貴と池邉の連打で築いた無死一、二塁で、七番ファーストで起用された石川が逆転3ラン本塁打を放つ。これで流れを引き戻し、4回裏には山﨑と井領の三塁打などで4点を追加。8回表に3点を返され、嫌なムードが漂うと、その裏には石川の2本目となるソロ弾でダメを押す。石川、山﨑の新人コンビが活躍した8対5の勝利は、連覇への期待を大きく膨らませた。

準々決勝、8回裏 逆転の2塁打を放つ山田敏貴

優勝するには、苦しい戦いも経験しなければならないと言われるが、東京都・東京ガスとの準々決勝はかなり苦しんだ。先発投手は、新人の尾田佳寛。1回表からピンチに立たされ、キレのあるボールで何とか切り抜けたが、4回表に無死一、三塁からスクイズで1点を先制されると、大城にマウンドを譲る。だが、大城も2安打と左犠飛で2点を追加され、3点を追う展開となる。

早く援護したかった打線も、相手の左腕投手に翻弄されて4回までひとりの走者も出せず、反撃の糸口さえ見出せない。いよいよ敗色が濃くなってきた8回裏、先頭の宮澤が左前安打、山﨑が四球の無死一、二塁から、代打の高橋泰文が中前に運んで1点を返す。内野ゴロの間に1点差とし、なお二死三塁では井領が詰まりながらも右前に弾き返して同点とする。スタンドの応援団もようやく盛り上がったが、これで終わらないのが王者の強さなのだろう。山田も右中間に打ち返し、井領が長駆ホームイン。一気に4対3と引っくり返し、9回表は大城が抑えた。試合後には、大久保監督も選手たちも「負ける気はしなかった」と口を揃える。本当の意味で連覇が見えてきた。

準々決勝、8回裏 逆転の2塁打を放つ山田敏貴

準決勝、初回先頭打者初球本塁打を放った石川駿

準決勝の相手は川崎市・東芝。長くライバル関係にあり、東芝は優勝回数でも2位と、ともに社会人野球を牽引してきた存在だが、本大会で対戦するのは初めて。東芝の印出順彦監督が、慶應義塾大で大久保監督とともにプレーしていたという縁なのか。いずれにしても、連覇の偉業には通らなければならない関所だと、野球の神様が示唆した戦いのようだ。

準決勝、初回先頭打者初球本塁打を放った石川 駿

ファンやメディアが固唾を呑んで見守る中、石川がプレイボール直後の初球を左中間スタンドに叩き込む。派手な一発で幕を開けると、5回表には前田と山田の二塁打で2点を追加。先発の大城は、その裏に1点を返されたが、その後は粘り強く抑えていく。7回表に井領の中犠飛で1点、8回表には二死満塁から石川が走者一掃の二塁打を放ち、7対1と大きくリードする。翌日の決勝に備え、大城を交代させるかと思われたが、大久保監督は続投を指示。結局、大城は151球で完投勝利を挙げ、ついに連覇へあと一歩まで漕ぎ着ける。大久保監督は、言葉に力を込めて言った。「どんなにリードが広がっても、エースの大城でなければ東芝の反撃が怖かった。最大のライバルに勝ったからには、もう優勝しなければならない」

決勝、2連覇の原動力となり、2年連続の橋戸賞に輝いた大城基志

映画やコミックでも、こんなに劇的なストーリーはあっただろうか。連覇を阻止しようと勝ち上がってきたのは、東京都・JR東日本だった。先発投手も、前年と同じくJR東日本が吉田一将(現・オリックス)、JX-ENEOSは三上だ。特に吉田は気合い十分で、1回表に3者連続三振で立ち上がる。この時、JX-ENEOSのベンチでは、三振した打者と宮澤の間で、こんな会話が交わされていたという。「吉田のボールは凄い?」「なかなかキレていますよ」「よ〜し、それくらいじゃないと面白くないよな」

その宮澤は、2回表に一死二塁で打席に立つと、吉田のボールを強烈なライナーで打ち返す。打球は吉田の右腕を直撃し、JR東日本は投手交代を余儀なくされる。二番手の代わり端に内野安打で1点を先制すると、4回表にも池邉の二塁打で2点目。三上は6回まで2安打無失点と、緊張感の中でも最高の投球を見せていた。

2連覇の原動力となり、2年連続の橋戸賞に輝いた大城基志

7回裏、相手の四番にソロ弾を許し、さらに二死一、二塁となったところで沼尾に交代。死球で満塁となったが、次打者を仕留めてリードは守る。そして、8回から連投の大城にマウンドを託すと、9回表には山田の二塁打、池邉の中前安打、宮澤の中前安打で3点目を奪う。その裏を大城が3人で片づけ、51年ぶりとなる都市対抗連覇は達成された。橋戸賞は2年連続で大城、3度目の優勝に導いた大久保監督には小野賞が贈られ、若獅子賞には石川が輝く。また、9名が大会優秀選手に選ばれる完璧な勝利だった。

小野賞を受賞する大久保秀昭監督

小野賞を受賞する大久保秀昭監督

51年ぶりの大会連覇、V11を達成した野球部

51年ぶりの大会連覇、V11を達成した野球部

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