ENEOSバスケットボールクリニック

聞いて! 答えて みんなの声

バスケットボールに関することを様々な人にインタビューしてお伝えする企画です

続いてお話をお伺いしたのは、現役時代ENEOSの前身であるジャパンエナジー/共同石油の選手として活躍し、現在はJBA女子ジュニア専任コーチとしてアンダーカテゴリーの日本代表を指導する萩原美樹子さん。
アウトサイドのシュートについて伺いました。

シュートチャンスの作り方について【アウトサイド編】〜フィニッシュスキル〜

最終回では、ちょっとテーマからは離れますが、指導者(特に育成世代の)視点でのお話をしてみようと思います。
私自身が現在、U14からU19までの女子選手を対象に教えています。この世代を教えるコーチたちとよく話題になるのが、技術の習得年代や段階の話…つまり、どの世代に何を教えるべきなのか、という話です。

再三申し上げているフレーズで恐縮なのですが、これも、正解はないと思います。ただ、科学的な人間の心身の成長や発達を鑑みれば、「こうした方がいい」「こうはしない方がいい」と、ある程度言うことはできるでしょう。バスケットを始めたばかりの8歳にNBAのトップ選手の技術をそっくりそのまま教えることはできませんし、教えたことをすぐにやれちゃう年頃に、フォーメーションばかり教えるのはあまりにももったいない。
正解はないのですが、世界各国のコーチたちや日本国内の優れたコーチたちのやっていることを見たり、話を聞いたりしているうちに、私自身見えてきたことがあります。それは「育成世代のうちは、1on1の技術(OFもDEFも)をしっかりと身に着けておく」ことです。特に、12~13歳…小学校高学年から中学1年生くらいの世代には重要なのではないかと考えています。

というと、なーんだ、そんなこと? と往々にして言われちゃうのですが、でも1on1って本当に奥が深くて、教えることややることが山ほどありますよ。DEFのバランスを崩す技術やドリブルでやっつける技術、相手との位置関係を把握してコンタクトしていく技術、シュートに持っていくフィニッシュの技術等々。そして守る方は当然、これら一つ一つをさせないための技術。「見て判断する」「守られたら咄嗟に逆を突く」「…と見せかけてやらない、などの駆け引き」などの要素もありますし、誰かが1on1をしている時他の4人はどうしていればいいの? ということについても伝えていかなければなりません。

1on1は、次の3つの局面から成り立ちます。

①OFがボールをレシーブする局面
②ドリブルでボールを進める局面
③シュートを放つ局面

例えば①の局面では、女子では割と伝統的に使われている「ボールミート」(「ムービングレシーブ」と言ったりもしますね)という技術などがあります。今は「ゼロステップ」が認められているので、動きながらボールをもらうことができれば、DEFとのずれをかなり大きく創り出せます。そうすればその後は、かなりOF有利に進められますよね。
…ただ、このボールミート。あえて苦言すると日本国内では非常にトラベリングが多いです。ゼロステップではなくジャンプストップで受けるミートですが、ボールをキャッチしてからおもむろに跳び始めるのは、完全にトラベリングです。もらってから2歩歩いているのと同じです。パスが空中にあるうちにすでに跳んでおけばいいのですが、跳び始めが遅い。このミートに対して国内では、何故か余程のことではない限りトラベリングをコールされません。これが習慣になっている日本の選手は国際ゲームに行くと、ボールを受ける段階でトラベリングを吹かれ、非常にフラストレーションを溜めながらプレーすることになります。海外遠征に行って、「あのミートはトラベリングだけど、いちいち鳴らしていたら試合にならないから、見過ごすことにするよ」とレフリーに呆れられた経験が何度かありました。(これちょっと恥ずかしかった…)
ゼロステップが導入されてからは尚更、この①の局面でのトラベリングは見過ごされているように見受けます。別に全員が国際ゲームを戦うわけではありませんが、国内と国外のルールの基準が違うってどうなの? といつも考えさせられます。

話が逸れましたが、1on1で相手を見て判断し、自分の体を考えた通りに動かすという能力は、空間認知や定位能力、バランス能力、順応性や反応など、コーディネーション能力に関わる部分。人間の発育発達上、神経回路は10歳にはほとんど成人と同じレベルに育ってしまうと言われているので、ゴールデンエイジ(8~12歳)に何を経験させるかというのは、その選手の先々に影響すると言っても過言ではありません。

もちろん、技術は大人になっても習得することはできますが、小さい子どもの上達のスピードに驚いたり、ある程度の年齢になってから新しい技術を覚えようとしてなかなか上手くならず、いや~、これもっと小さい時に知っておきたかったな…なんて思ったりした経験が、元々はプレーヤーでコーチになった方なら一度や二度あるのではないでしょうか。私がまさにそうなんですが。

2017年に、スペインのマドリッドにある伝統ある名門クラブを紹介してもらって、どんな練習をしているか見に行ったことがあります。スペインの選手は男女ともに、ピック&ロールの使い方が抜群にうまい。さぞかし小さい時にピックの使い方を細かく教わっているのだろう、どんなドリルをしているのか知りたい、というのがこの視察の自分的テーマでした。

ところが、目にしたのはまるで真逆の風景でした。クラブの育成世代、男女のトップチームの練習と試合を見せてもらったのですが、育成世代の試合はひたすら1on1の応酬です。エリートクラブになると多少シンプルなスクリーンなどが入っていますが、それ以外はDEFリバウンドをとった選手がそのままドリブルプッシュしてきて、ゴールまで突進します。他の4人はオールアウトでしっかりスペースを取ります。大きい選手、小さい選手、関係ありません。

試合としては正直面白くありません。とにかく、自チームも相手チームも1on1しかやらないんですから。アテンドしてくれたコーチや、育成世代のコーチ何人かに訊きましたが、戦術的なことは15歳くらいから少しずつ教えていく、それまではとにかく目の前の相手をやっつけてシュートまで持ち込むこと、DEFはそれを阻止することを教えるということでした。さらに皆さんが強調していたのは「ヘルプが来たらパスをさばく」ということ。ヘルプが来ているにもかかわらず、自分本位にタフシュートに持ち込んでいったりすると、どうすれば良かったかとしっかり指導するのだそうです。(余談ですが、ゾーンは教えないの? と訊いてみたら、なんで今教える必要があるの? と逆に聞き返されて返答に困りました。本当の話です。)
曰く、どんなにピックや素晴らしい戦術を使っても、最後に個々がシュートまで持ち込む力がなければ、何をやっても無駄だよね、ということ。成人の選手たちはあんなにピックがうまいのに、14歳まで一切教えていないという拘りには、大変考えさせられました。

日本の選手が国際ゲームで試合をする姿を見ていて、1on1の局面で明らかに他国の選手に比べてイマイチな技術があるな~と、常日頃感じているものがあります。フィニッシュスキルです。
これは実は、男女ともに、すべてのカテゴリーに共通することのようです。なぜ、国際ゲームで露見しやすいかと言うと、対戦相手が長身になるためです。たとえ①、②の局面でDEFを抜き去っていても、最終的に簡単にブロックされてしまうケースは、本当に多いと思います

そういう目で国内の試合を見てみると、フィニッシュ時の競り合いが少ないということに気づきます。ファウルをしないようにコンタクトをし、OFにさせたいことをさせないよう粘って、最後はシュートブロックにチャレンジするDEFって、確かにあまり見かけません。OFは簡単にレイアップまで持ち込めてしまうため、フィニッシュスキルが上達する機会がありません。

これについては私自身も大いに反省したのですが、上でいう①と②の局面については割と細かく教えるものの、③のフィニッシュは適当に「1、2」で踏み切ってレイアップシュート、というドリル構成がとても多かった。スペインの選手を見ていると、1歩で踏み切ってブロックのタイミングをずらしてみたり、ゴール下で打たずにバックシュートに持ち込んでみたり…と、実に多彩なフィニッシュスキルを駆使しています。ゴールデンエイジに1on1を沢山することで会得した技術なのかもしれません。

そうやって考えていくと、ただ単に1on1でしょ? という前に、私たちコーチがすることは決して少なくはなさそうです。セットプレーの理解ももちろん必要なことですが、今しか身につけられない技術があるとすれば、どの世代に何を教えるかは特に育成世代のコーチにおいて、重要且つ責任のある仕事であるように思います。

先ほどのスペインでは、選手たちが試合に勝っても負けても、応援席で大声を出していた保護者たちに「よく頑張ったね!」と抱きしめられて、ニコニコしながら一緒に家路につく姿がとても印象的でした。そういう場面を裏で支えているのが育成世代のコーチたちだとしたら、それはとても誇りとやり甲斐の持てる仕事なのではないかと思うのです。

(文:萩原美樹子)

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