ENEOSバスケットボールクリニック

聞いて! 答えて みんなの声

バスケットボールに関することを様々な人にインタビューしてお伝えする企画です

続いてお話をお伺いしたのは、現役時代ENEOSの前身であるジャパンエナジー/共同石油の選手として活躍し、現在はJBA女子ジュニア専任コーチとしてアンダーカテゴリーの日本代表を指導する萩原美樹子さん。
アウトサイドのシュートについて伺いました。

シュートチャンスの作り方について【アウトサイド編】〜オフェンスリバウンドをとった後のシュート〜

前回はアウトサイドのシュートチャンスの作り方について、スペースを取ることと、「どこを見るか」の重要性についてお話しました。特に「どこを見て」「何を判断するか」は、シュートだけに限らずとっても大事です。つまるところ、バスケットボールはオフェンスもディフェンスもすべて「選択」の連続。コート上にいる10人が、常に何らかの選択をしてゲームが成り立っているからです。
選択には判断がついて回ります。何も考えずにわざわざスーパーに行って、「なんとなく」ものを買うということはないですよね。「水を飲みたい」「今日の夕飯の材料を買わなきゃ」という考え(目的)があって、お財布の状況に基づきつつ(判断材料の一つ。バスケットの「何を見るか」に当たりますね)、「これは予算オーバー」「お菓子も欲しいけどダイエット中」などの判断を常にしながら買うものを選択しているはずです。
バスケットボールの判断に絶対の正解はありません。しかし、何も考えずに「ただ何となく」そのプレーを選ぶということは極力避けたいものです。これは、トッププレーヤーだけではなく、実は育成世代の選手にこそ大事な要素なのではないかと思います。

さて、今回は少々マニアックに、オフェンスリバウンド(以下、ORと略します)を取った後のシュートについて考えてみたいと思います。

よく、前回述べたようなスペースを取ったオフェンスを提唱すると、「それではORに行けないのではないですか」と質問されることがありますが、そんなことはありません。スペースを取っているだけですので、シュートが起こったらリバウンドを取りに飛び込んで行けばいいだけのことです。むしろ、ゴール下に陣取っているよりも飛び込んでいく分だけ、ディフェンスはボックスアウトをしにくくなります。ただ、どうしても動く範囲は大きくなりますよね。
ORを多く取る選手は、間違いなく良い選手と言えます。「ボールがあそこに落ちるかもしれない」という予測、リバウンドに入る走り出しのタイミング、そして何より、行ったのに取れなかった場合深い位置からディフェンスにスプリントバックしなければならないというリスクを冒しながらも、仲間のシュートミスをフォローしようとするメンタルを持っているわけです。そういう要素を知っていながらチャレンジするのですから(ORは、取りに行くというチャレンジをしなければ絶対に取れません)、言ってみればバスケットボールの神髄に迫るような面白さを、どこかで理解している選手なのかもしれません。

なんてこんなことを言っていますが、実はこのOR、私は現役時代本当に苦手なプレーでした。
あ、知らない人も多いと思いますが、私は今はコーチですが、元々は選手だったんですよ。ポジションは2〜3番でした。リバウンドを取りに行くのが面倒くさいから、自分の打ったシュートは全部入れようと思って滅茶苦茶一生懸命シューティングをしていました。でもこういう動機付けは、当然ですがあまりお勧めしません。皆さんはぜひORを好きになってくださいね。取れると最高に嬉しい(らしい)ですよ。チームも盛り上がりますし、もちろんコーチもとっても嬉しいです。

さて、このOR。取った後のことまでちゃんと考えておいたり、チーム内である程度の共通認識ができているととっても良いです。場当たり的なプレーが減るからです。もし育成世代でここまで決められているチームがあるとしたら、それはかなりレベルが高いチームだと自負してもらっていいと思います。

ケース① ORを取った場所がペイントエリア内だった場合

まずはそのままシュートを狙いましょう。これはディフェンスとしては最も嫌なプレーの一つです。なぜならゴール直近ということでシュートの確率も高いうえ、ファールを犯してバスケットカウントを許してしまう可能性も高いからです。また、ゴール下でORを取られるということは、ディフェンスの何かが機能せず(ボックスアウトも含め)、オフェンスにゴール近くまで侵入を許してしまったという証でもあります。リバウンドシュートが落ちたらまた取りに行って、何回もシュートにチャレンジしましょう。(プットバックと言います)
ただし、大きなディフェンスが立ちはだかっていて、ファールも誘えず、シュートブロックをされる可能性が高いと判断した場合、そして、ゲームの点差と残り時間(例えば、ゲームが残り20秒くらいで3点差で負けている時など)の関係によってはこのプットバックをチャレンジしない方がいい場合もあります。そこはしっかりと「判断」し、ボールを一度アウトサイドの味方に出すという選択をします。

ケース② ORを取った場所がペイントエリア外だった場合(ロングリバウンドなど)、或いは①のケースでゴール下からアウトサイドにパスが出された場合

一つの選択肢としては、ボールを持った選手がシューターだった場合、3Pシュートを狙うという方法があります。ORをとられた直後は、ディフェンスも崩れた状態でまだマッチアップなどが間に合わず、アウトサイドのオフェンスがワイドオープンになっているケースが多いからです。
それに、ORを取られた後の3Pって、ディフェンスからするとダメージが大きくないですか? 取られただけでも嫌なのに、そのあと3Pをねじ込まれるとガクッと来ますよね。これが2回連続続くもんなら、もうベンチはほぼタイムアウトです。それだけダメージを与えることができるシュートとも言えます。

二つ目の選択肢は、もう一度チームオフェンスを組み立てる方法です。
とはいえ、ORを取った後のショットクロックは14秒しかありません。リバウンドを取って外にパスをしたというだけで1〜2秒近くロスしていると考えれば、この後は10秒前後でシュートに行けるチームオフェンスの形を、ある程度ルールとして決めておくと迷わなくていいですよね。
例えば、1on1にめっぽう強いエースがいるのであれば、そこにボールを預けて他はアイソレーション(邪魔しないようスペースを取る)し、自分のディフェンスがヘルプに行ったら合わせて動く方法や、ポイントガードに預けてピックアンドロールを仕掛ける方法などが考えられるでしょう。ピックアンドロールは一番時間をかけず簡単にオフェンスをオーガナイズでき、なおかつ効果が高い方法の一つです。

ORは相手に対して非常に大きなダメージを与えることができ、また自分たちも再度シュートをするチャンスを増やすことになるので、育成世代の選手は特に、積極的に取りに行くチャレンジをしてほしいと思います。

ただ、今回のテーマからやや外れるのですが、どうしても言っておきたいことが一つ。同時にセーフティも忘れないでほしいと思います。シュートが起こったら、コート上にいるオフェンス5人は必ず何らかの役割を担っていると思ってください。すなわち、ORに行く人とセーフティに戻る人です。何もしない人と言うのはいないはずなんです。
このセーフティを1人にするのか2人にするのかでORに行く人数は変わってきます。これは各チームのルールによります。(例えば昨今のNBAなどではORにチャレンジせず、全員セーフティに回るという戦術も見られます。NBAはファストブレークからの得点、特に3Pの確率がめちゃくちゃ高いためです。)

育成世代のチームを見ていると「うちはトランジションのチームです」という割には、トランジションディフェンスに無頓着なチームや選手を多く見かけます。つまり、オフェンスでファストブレークを出すためには一生懸命走るものの、ディフェンスで相手のファストブレークを止めるために一生懸命走ったり、マッチアップを味方とコミュニケーションしてとらえることについては気にしていないケース。これは厳密には「トランジションのチーム」とは言えないと思います。
トランジションとは「早く走る」という意味ではなく、「切り替え」という意味です。バスケットにおける切り替えの局面は2つ。ディフェンスからオフェンスになる局面とオフェンスからディフェンスになる局面です。両局面に対してしっかりとルールや考え方を共有しているチームこそが、本当に「トランジションのチーム」と言えるのだと思います。トランジションディフェンスと言うのはなかなか数字に表れにくい要素ではありますが、オフェンスへの切り替えだけではなく、ディフェンスへの切り替えも大事にしてほしいと思います。そこに直結する要素がORとセーフティです。日頃の練習から常に意識をして、文字通り「あいつは意識高いな」とコーチに言わせるような選手を目指しましょう。

今回も、シュートとはややかけ離れた部分までアツく述べてきてしまいました。。次回はシュートセレクションについてちょっと考えてみたいと思います! またお付き合いください。

(文:萩原美樹子)

TOP