ENEOSバスケットボールクリニック

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バスケットボールに関することを様々な人にインタビューしてお伝えする企画です

日韓オリンピアン対談 チョン・ジュウォンコーチに聞きましたライバル韓国女子バスケの育成事情とは

大山妙子コーチがナビゲーターとなり、WKBLウリ銀行のチョン・ジュウォンコーチに韓国女子バスケの育成事情について伺いました。チョン・ジュウォンコーチは、現役時代は大山コーチとマッチアップしたライバルであり、韓国代表として大活躍したスター選手。そんな韓国のレジェンドから、興味深い話をたくさん聞くことができました。

コーチと選手の信頼関係があってこそ、選手は成長する

  • 大山コーチ(以下大山)

    チョン・ジュウォンコーチが選手を指導するうえで大切にしていることは何でしょうか?

  • チョン・ジュウォンコーチ(以下コーチ)

    まず大前提として選手とコーチが信頼し合い、向き合うことがすべての始まりで、大前提として考えています。真正面から信頼が築かれていると、選手たちがしっかりとついてくるし、教えたことに対して早く習得できるようになるので信頼関係が重要です。

  • 大山

    選手というのは敏感だから、コーチの指導する姿勢を見ていますよね。

  • コーチ

    そうなんです。信頼関係というのは、コーチと選手としての信頼もそうだけど、人としての信頼と技術的な信頼をしっかり築いていくことが大切になります。どれだけコーチがいい技術を教えたとしても、コーチと選手が正面から向き合っていなければ伝わりませんから。もちろん、選手にはそれぞれ個性があるので、その選手に会った接し方や指導のしかたはあります。チーム作りにおいては、全体の舵取りはウィ・ソンウ監督がやっているので、私は選手と監督をつなぐ役割を果たしています。

少子化の中で基礎ができていない選手が増えてきている韓国女子の現状

  • 大山

    ここから今回のテーマである「育成」についてお伺いします。まず、韓国女子バスケの現状についてお聞かせください。

  • コーチ

    韓国女子バスケの現状でいうと、今は少子化で競技人口が少ないので、限られた選手がプロのWKBL(韓国女子バスケットボールリーグ)に上がってくる状況です。底辺が少ないので、基本ができていないのにプロに進出する選手が多くなっており、そういう選手はプロでは試合に出られないので、プロに入ってから改めて基本から教えているのが現状です。

    また、現在は学校の部活動よりも、クラブチームの運営を普及しようとしている変革期に入っています。今はその初期段階なので、指導環境が整うのはもう少し先になるでしょう。バスケの指導環境を整えるために時間をかけて見守っていかなくては、というのが現状です。

  • 大山

    基本ができていない選手が多いのは少子化の影響があるようですが、その関係性を具体的に教えていただけますか?

  • コーチ

    昔は学校の部活動で強化された少数精鋭の選手がWKBLへと進んでいくエリートシステムがあり、小学校の頃から個人練習を含めても一日5~6時間は練習していました。そのエリートシステムとWKBLの練習内容のバランスが取れていたのが昔です。でも最近は少子化なのでスポーツをする人が少なくなっています。「スポーツ=疲れる、しんどい」というイメージがあるので、親は一人息子や一人娘にはスポーツをさせない傾向があります。そんな中では、部活動で2時間くらいしか練習ができないので、そもそも昔と今では練習量が違うのです。

日本の部活動とは異なる韓国の少数精鋭のエリートシステム



  • 大山

    日本だったらバスケの部活動はどこの学校にもあるし、高校の全国大会でいえば、インターハイ、国体、ウインターカップがあって、それに出るための予選や強化のための練習試合や遠征が盛んです。韓国には、いわゆるプロ進出に直結するエリートシステムで強化する強豪中学や高校の数はどれくらいあって、大会の仕組みはどうなっているのでしょうか?

  • コーチ

    女子の高校で強化している部活動は国内で20~24校、中学女子では26校くらいしかありません。また、日本と違って一つの学校に20人も30人も部員がいるかといったらそうではなく、とても少ないです。高校の全国大会はその名の通り、全国体育大会が1つあり、それ以外は大統領旗杯と2つのカップ戦がありますが、全部の大会に出場するわけではありません。韓国の学校スポーツは部活動というよりはエリートスポーツとしてやっているので、予選を勝ち抜いて参加する大会がない。そういう過程がないから、大会に対してのモチベーションが高くないというのがあります。

  • 大山

    日本と比べると、バスケ部がある学校そのものも少なければ、部員も少ないというわけですね。そんな中で親がスポーツをさせない傾向とのことですが、バスケの競技人口も減っているのでしょうか?

  • コーチ

    以前はスポーツといったらバスケを選ぶ人が多かったのですが、今は女子バレーと女子バスケが同じくらいになりました。スポーツの中では格闘技をする人が壊滅的に少ないですね。唯一、増えているのはゴルフでしょうか。

  • 大山

    ここで疑問なのですが、エリートシステムでプロ選手を輩出しているのは今も昔も同じだと思うのですが、そういう状況にも関わらず、以前の韓国代表がアジアや世界で強かった理由は何でしょうか? WKBLの練習がすごいのでしょうか? それとも、少ないながらもエリート教育が良かったのでしょうか?

  • コーチ

    これは私の見解ですが、先ほども話した少子化という社会現象の影響があると思います。最近の韓国は子供が一人という家庭が多いので、楽しいことだけをやって、辛いことをさせないというのが風潮としてあります。昔の選手が上手で、今は下手という比較はできないのですが、昔は小学校の上級生(5、6年生)だけでも20人くらい部員がいたし、大人数の中でトレーニングをしていたので切磋琢磨できたぶん、技術の向上が早かったのだと思います。

    でも今は1学年で5、6人くらい。2つの学年を合わせても10人もいないチームが多いです。バスケは人数が少ないとやれる練習も限られるし、一人一人の負荷も大きくなる。基本技術というのはシンプルで地味なことだけど、やり続けなければ伸びていきません。でも、基本練習は辛くて面白くないとなると、楽なことをやりたい社会的な風潮からやらなくなります。先ほども話したように、練習の量と質に差が出て、技術がなかなか伸びていかないのです。

ジュニア期には基本の徹底とより明確な目標設定が必要

  • 大山

    そうした状況を踏まえ、現在、韓国の小・中・高生の育成年代と言われるジュニア期の状況をどのように分析し、何を一番にすべきだと考えますか?

  • コーチ

    今も昔も目標を定めることは同じですが、最近はより目標を明確にして指導することが大切だと考えています。なぜなら、若い選手は面白くないことはやりたくない傾向なので、基本習得の地道な練習はやりたくないのです。基本ができている選手はプロに上がっても、スピードアップして成長していきます。でも、できていない選手はプロでは伸びないので、ジュニア期に目標を明確にしないと将来に続いていきません。

    また、最近はスキルトレーニングの動画をどこでも見ることができます。若い選手は基本をやらずに派手なスキルばかりを見てマネをする。派手なスキルも重要だけど、基本が合わさることでもっと光を放ちます。スキルだけ身につけても限界が見えてきてしまうので、ジュニア期には基本を徹底して教えることが必要だと感じています。

  • 大山

    ジュニア期において身につけてほしい基本とは、どこからどこまでのことを指しますと考えていますか?

  • コーチ

    コーチ まず韓国の女子に言えることは、基本動作のスタンスや姿勢ができていないので、ここを徹底しないといけません。シュート、ドリブルの姿勢からしてできていないので、不安定なプレーになってしまうのです。昔であればレイアップシュートをはじめとした様々なシュート、状況に応じたドリブルは基礎練習の過程でやっています。でも今は当たり前にやっていた練習が当たり前ではない。すべてにおいて、通るべき登竜門を通らず、技術の表面というか、上辺だけでやっている選手が多いので、土台が備わっていないように見受けられます。

    それらを総括して、今後ジュニア世代でやるべきことは、ドリブル、パス、シュートの細かいアクションを習得することはもちろん重要として、将来に限界がやってこないために必要なトータルした学びこそが、ジュニア期に必要な基本と言えます。

少子化ながらも、才能ある選手を発掘できているのが韓国の希望

  • 大山

    ここまで課題ばかり上がっていますが、その中で韓国の女子バスケの希望として見えていることはあるのでしょうか?

  • コーチ

    現状、スポーツ選手やバスケ選手が少なくなっていることは事実ですが、それでも、少ない中にも才能のある選手の割合は多いと感じています。才能ある選手が100人に一人まで落ち込んだわけではなく、10人に一人の割合で発掘できているのが韓国女子バスケの希望です。今はアジアの中でも弱くなっているとはいえ、底辺まで落ちない理由というのは、才能ある選手が出てきている現状があるからです。そうした才能ある選手を発掘し、育てていくことで韓国の女子バスケは復活できる希望があると思っています。また、チームに選手が少ないということは、一人一人に対しての指導やケアは行き届くので、選手数が少ないなら少ないなりの指導法で育てていきたいです。

    若手の中ではWNBAのラスベガス・エースでプレーしたパク・ジス選手(198㎝/22歳/KBスターズ)や高校3年生の時に韓国代表に選出されたパク・ジヒョン選手(183㎝/20歳/ウリ銀行)など才能のある選手が出てきています。そういう才能のある選手を見つけて育てていくことが、これからの韓国の希望です。

    大山

    新型コロナウイルスの問題があますが、そんな中でもスポーツ界は少しずつ前に進み出しました。この状況下で頑張っている日本と韓国のバスケコーチや選手にメッセージをお願いします。

  • コーチ

    今は新型コロナウイルスによって、経済やスポーツが大打撃を受けておりますが、本来スポーツとは健康を作る象徴であると思います。私たちのようにプロスポーツ選手が健康で元気に頑張ることによって、人々に勇気を与えることができるのではないでしょうか。そのためにも、コーチや選手が自分自身の行動に細心の注意を払いながら、一生懸命にスポーツをしていくことが重要ではないかと思います。

    日本のジュニア世代に対しては、まず「目の前にある小さな目標をしっかり立てて頑張りましょう」と言いたいです。小さな目標を立てることによって、目標に到達するまでの楽しさとか、興味が沸いてくると思います。しんどい時こそ目の前の小さな目標が自分の力になります。目標を立てて、一つ一つ頑張って乗り越えていくと、その先にはもっと素晴らしいバスケット人生が待っています。なので、小さな目標を定めて頑張ってほしいです。

  • 大山

    ジュニア期の指導に関して「基本が大事」であることは、日本も韓国も、もっといえば世界中で共通していることだと認識することができました。また韓国女子バスケが少子化による変革期を迎えながらも、未来に向かっていることも分かりました。こうしたライバル国の現状を聞き、部活動やクラブ活動が盛んな日本では、競技人口が多いという利点を生かし、どう指導していくか考えさせられました。今回は貴重なお話をありがとうございました。

チョン・ジュウォン
WKBLの名門、ウリ銀行コーチ。1972年生まれ。現役時代は得点力とゲームメイクに優れた176㎝のビッグガードとして活躍。2000年シドニー五輪と2002年ワールドカップにて韓国をベスト4へと導いた。次期韓国女子代表ヘッドコーチ候補であり、韓国を代表するレジェンド

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