V12 ENEOS野球部 集合写真

V12 [2022年 / 令和4年] 第12回優勝
第93回都市対抗野球大会

大会に向けて

社会人野球でしのぎを削るチームは、黒獅子旗とともに“常勝”を目指す。だが、長い歴史において、勝ち続けているチームなど存在しない。名門と呼ばれるチームは、黄金時代のあとに苦しむ時期を過ごしても、また立ち上がって頂点に立つ。都市対抗で最多となる12回の優勝を誇るENEOS野球部の歩みも、まさにそうである。

都市対抗通算99勝目を挙げ、前人未到の100勝に王手をかけた2015年を最後に、ENEOS野球部は東京ドームから遠ざかってしまう。東芝、三菱日立パワーシステムズ(現:三菱重工East)との三つ巴の戦いで、1チームだけが敗退する都市対抗西関東二次予選において、2連敗が4年続く。振り返れば、1967年に5回目の優勝を果たしたあと、1986年まで19年間、黒獅子旗を手にできなかったことはある。ただ、そんな時代でも予選で苦杯を喫したのは3回しかない。つまり、4年連続の予選敗退は、1950年の創部以来最悪の屈辱であった。

選手たちは日々の練習に全力で取り組み、チーム一丸となった戦いを見せる。だが、フルスイングで放った鋭い打球は相手野手の正面を突き、反対に相手打者を打ち取った当たりが野手のいないフィールドに落ちる。そうしたシーンを何度も見せられる。日本選手権には連続出場しているのに、都市対抗には届かないもどかしさ。まるで、出口の見えないトンネルに入ったようだ。それでも、選手たちは前向きに戦おうとするが、前がどこなのかさえわからなくなっていた。

そんな苦しみもがくチームに、大久保秀昭監督が帰って来た。巧みな手腕で選手たちに自信を取り戻させ、2020年は5年ぶりに東京ドームへ返り咲き、都市対抗通算100勝を達成。2021年は7年ぶりのベスト8と、着実に力をつけていく。

そうして、2006年に初めて監督に就いた時、また、母校・慶應義塾大を率いた時も、3年目に優勝へ導いている大久保監督が、再任して3年目を迎える。厳しい勝負の世界で、そんなに何度も上手く物事が運ぶことなんてあるのか――それを証明するシーズンが幕を開けると、3月の第76回東京スポニチ大会でベスト4に進出。4月に行なわれた第63回長野県知事旗争奪大会では準優勝し、5月の第74回九州大会では17大会ぶりに優勝する。日本選手権への出場権を得て都市対抗西関東二次予選を迎え、ライバル・東芝には惜敗したものの第二代表で東京ドームへのチケットを手にする。

一回戦、ベテラン・山﨑 錬の2ラン本塁打、柏原史陽の好リリーフ、投打が噛み合い快勝

3年ぶりの夏開催となった第93回都市対抗野球大会は、7月18日に幕を開ける。一回戦の相手は大垣市・西濃運輸だ。振り返れば、3連覇を狙った2014年の第85回大会準決勝で1対6と敗れ、夢を打ち砕かれたのが西濃運輸だ。8年越しの再戦は、1回表にリードオフの瀧澤虎太朗が四球を選ぶと、すかさず川口 凌がライトへ二塁打を放って1点を先制。さらに、一死二塁から四番の山﨑 錬が左中間スタンドに2ラン本塁打を叩き込み、巨人からドラフト5位指名を受ける西濃運輸の先発・船迫大雅から3点をリードする。

先発を任された加藤三範は、3回まで無安打と順調に滑り出したが、4回裏に2ラン本塁打を許して1点差に迫られる。だが、直後の5回表に瀬戸西 純の四球から二死満塁のチャンスを築き、三菱重工Eastから補強した武田健吾の左前安打で2点を取り返す。さらに、7回表には二死一、三塁から度会隆輝がセンターへ弾き返して1点を追加。守っては、6回から加藤をリリーフした柏原史陽が2安打6奪三振で西濃運輸に反撃を許さず、6対2の快勝で難しい初戦を勝ち上がる。

  • 一回戦で2ラン本塁打を放つ山﨑 錬
  • 一回戦に先発した加藤三範

二回戦、投打にスキのない戦いで、2年連続のベスト8に進出

二回戦の相手は、一回戦で大会初勝利を挙げた八尾市・ミキハウスだ。勢いに乗るチームに対しても、ENEOS打線が序盤から襲いかかる。先発の関根智輝が立ち上がりを無失点で切り抜けると、2回裏に先頭の武田が右中間を破る当たりで三塁を陥れる。続く度会の中前安打で幸先よく1点を先制すると、さらに柏木秀文の二塁打や敵失などで3点を加える。そして、3回裏には度会がライトへ会心のソロアーチを描く。

関根が丁寧な投球で5回まで無失点に抑えると、大久保監督は6回から長島 彰、本間大暉と三菱重工Eastから補強した2投手をマウンドに。ミキハウスに2点を返されたが、9回には糸川亮太と柏原も投入し、小刻みな継投で相手の目先をかわしながら5対2で逃げ切る。投打にスキのない戦いで、2年連続のベスト8に進出。準々決勝には川崎市・東芝が勝ち上がってくるかと思われたものの、一回戦で札幌市・北海道ガスに0対1で敗れてしまう。都市対抗は下馬評など当てにならず、優勝候補をも呑み込んでしまう魔物がいることを再認識させられる。

  • 二回戦で勝利投手になった関根智輝
  • タイムリーヒット2点目を放つ柏木秀文

準々決勝、先発・柏原の6回無失点の好投、度会の2ホーマー5打点の活躍で快勝

準々決勝は、広島市・JR西日本との対戦である。先発は、3試合続けて登板する柏原。「優勝した平松政次さんや大城基志さんは5試合すべてに登板したと言われ、自分もフル回転するつもり」

そう頼もしく語った右腕は、火が点くと止まらなくなるJR西日本の打線に1回裏から一死二塁とされるも、慎重にコーナーを突く投球で先制点を与えない。すると、2回表に先頭の山﨑が相手投手のグラブを弾く安打で出塁し、続く度会は1ボールからの2球目をバックスクリーンまで運ぶ2号2ラン本塁打。これで先行し、3回表には二死から川口と武田の連続長打で3点目を挙げる。それでも柏原は守りに入らず、攻める投球で4回まで無失点の好投だ。

迎えた5回表は、瀬戸西からの3連打で相手先発投手をKO。なお二死一、三塁から度会が3号3ランを右中間スタンドに突き刺し、7対0として勝負の行方を前半で決める。7回からは長島、阿部雄大、加藤と継投して1失点に止め、いよいよ8年ぶりの準決勝へ駒を進める。試合後のインタビューで、大久保監督はこう言った。「一回戦から戦ってきた西濃運輸、ミキハウス、JR西日本は、3チームとも活動休止から復活したチーム。そのハングリーさや粘りをベンチでひしひしと感じ、敬意を払いながら、ENEOSも必死に全力でぶつかりました。準決勝も全力で戦いますので、またスタンドから後押しをお願いします」

対戦相手をリスペクトしつつ、ENEOSが伝統の底力を発揮してきた。

  • 準々決勝で好投する柏原史陽
  • 二回表横浜市無死一塁、中越え2点本塁打を放つ度会隆輝

    写真提供(毎日新聞社)

準決勝、瀬戸西のサヨナラ安打により劇的な勝利で決勝へ進出

準決勝に勝ち上がってきた東京都・NTT東日本は、2017年に黒獅子旗を手にしたあとも、2018年にベスト8、2020年は準優勝、2021年はベスト4と、全国屈指の戦績を残している。ENEOSは3回裏に瀧澤のソロ弾で1点を先制するも、直後の4回表に先発の加藤が2ランを被弾。それでも、5回裏二死一、二塁から川口がライト前に打ち返して2対2と振り出しに。ここから試合は膠着する。

ENEOSは、7回途中から柏原を投入してNTT東日本の打線にチャンスを作らせない。一方で、6回裏無死二塁を無得点で終えると、7、8回は3者凡退に抑えられてしまう。柏原が9回表に二死二塁のピンチを凌ぐと、いよいよ9回裏の攻撃。この回に得点できなければ、延長10回からはタイブレークが適用される。

その9回裏は、先頭の度会が三塁ゴロに打ち取られるも、丸山壮史は2ストライクからしっかりと見極めて四球を選ぶ。ここで柏木は「送りバントかと思った」と言うが、大久保監督から「ヒーローになってこい」と送り出され、1ボール2ストライクからレフト線に弾き返す二塁打で二、三塁とチャンスを広げる。NTT東日本は小豆澤 誠を申告敬遠して満塁に。ここで打順が回ってきた瀬戸西は「代打を出されるかと思った」と言うも……。「おまえもヒーローになってこい」

そう大久保監督から声をかけられ、託された信頼に応えてライト前へサヨナラ安打を放つ。劇的な勝利で、ENEOSは12回目の決勝に進出する。そう、過去11回は負け知らずの決勝だ。

  • 準々決勝で好投する柏原史陽

    写真提供(毎日新聞社)

  • 二回表横浜市無死一塁、中越え2点本塁打を放つ度会隆輝

    写真提供(毎日新聞社)

決勝、起死回生、3発のミラクル打で黒獅子旗を奪還

頂上決戦は、前年王者であり、ENEOSが準々決勝で惜敗した東京都・東京ガスとの激突だ。ENEOSを手本に強化されたチームだけに手強く、3回裏二死満塁から先発・関根の押し出し四球で1点を先制されてしまう。先手を取られるのは、この大会で初めてだ。さらに、5回裏に一死一、三塁と攻め込まれ、関根から加藤に投手を交代したものの、加藤が3ラン本塁打を浴びてしまう。なお一死満塁のピンチは三番手に長島を注ぎ込んで凌いだが、前半を終えて0対4は、なかなか追いつけない点差だと思えた。

だが、ENEOSは準決勝では12勝8敗でも、決勝では11勝して無敗である。

5回終了後のグラウンド整備で流れが変わると言われる6回表、先頭の川口が死球で出ると、武田はセンターへの二塁打で二、三塁とする。山﨑はピッチャーゴロで一死となるも、度会が1ボールからのストレートをスイングすると、打球は一直線にライトスタンドへ。4号3ランで一気に1点差に迫り、三塁側のスタンドも盛り上がる中、続く丸山もフルカウントからライトへ同点弾を叩き込む。東京ガスは、広島からドラフト3位指名される先発の益田武尚に代えてエースの臼井 浩を送り込むが、二死後に小豆澤も右中間スタンドへ逆転弾を放つ。起死回生の3発で5対4とリードし、その裏は長島が3者凡退に斬って取る。

7回裏の二死一、二塁も長島が凌ぎ、8回裏は本間が抑える。9回裏には満を持して柏原がマウンドに登り、気迫あふれる投球で3つのアウトを取る。こうして、ENEOSは9年ぶり12回目の黒獅子旗を手中に収めた。

  • 決勝で追撃3ランを放つ度会隆輝
  • 決勝で同点ソロを放つ丸山壮史
  • 決勝で逆転ソロを放つ小豆澤 誠

優勝シーン

優勝シーン

3賞を独占した度会隆輝

大活躍の度会が橋戸賞、打撃賞、若獅子賞に選出される。この3賞を独占したのは、1975年の丹 利男氏(電電関東)以来2人目。

3賞を独占した度会隆輝

2回目の小野賞を授与される大久保秀昭監督

大久保監督は、史上初めて2013年に続く個人2回目の小野賞を手にする。そして、柏原、加藤、柏木、川口、度会、山﨑の6名が大会優秀選手に選ばれた。

2回目の小野賞を授与される大久保秀昭監督

V12を達成した野球部

表彰式後に記念撮影

ENEOS FAN